第101回箱根駅伝(2025)BACK NUMBER
「メソッド対決でうちが勝った」青山学院大学・原晋監督が語った箱根駅伝勝利の方程式と、ライバルたちの王座奪還への戦略
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph byKiichi Matsumoto
posted2025/01/10 10:00
青山学院大学を率い、箱根駅伝で8回目となる総合優勝を成し遂げた原監督
6区終了時点で4分7秒まで開いた差が、一気に1分40秒差にまで縮まる。駒大の藤田敦史監督は、この場面に手応えを感じた様子だった。
「前回、うちは1、2、3区にエースを並べたんですけど、青山(青学大)さんに蓋をされて(それ以降は)何もできなくなってしまった。ですから今回は、次の一手が打てる展開にしたいとつねづね考えていて、その一手が佐藤の7区起用でした。まさに期待通り、素晴らしい走りをしてくれたと思います」
それでも「ただし」と言って、表情を曇らせる。
「本来、佐藤は7区を走る選手じゃないんです。往路区間で圧倒的な走りができますから、今回は苦肉の策でした。青山さんはポイントとなる区間で確実に走ってきますし、今回のレースでもその強さを感じましたね。やはり、もう少し選手層を厚くしていかないと対抗するのは難しいです」
じつは青学大の原監督が、もっとも苦しかったと振り返ったのもまさしくこの7区だった。1分40秒というタイム差は安全圏ではない。9区途中で2分以上の差をつけるまでは「胃がキリキリしていた」と言う。
「佐藤君が普通のランナーだったら、あの時点でもうピクニック気分ですよ。そこを一気に詰められて、1分40秒差までいったでしょ。もし8区の塩出(翔太・3年)のところで1分を切るなんてことになるともう後ろが見えてきますからね。1分や1分半だと相手も諦めないんですよ。駒大との差が1分30秒に振れるか、2分に振れるかというところで、塩出や9区の田中(悠登・4年)がよく耐えてくれました。ラスト5kmで(ペースを)上げる走りをよくしてくれましたよね」
これは前田監督も指摘していたことだが、青学大の選手は20km前後からの走りが際立っている。疲れからペースが鈍る終盤に、もう一度力を振り絞ることができるのだ。これこそが原メソッドで培った走力であり、キーワードに掲げる「駅伝力」なのだろう。
進化を支えるメソッドと熱意
終わってみれば、2位の駒大に2分48秒差をつける完勝。早くも来季の連覇の可能性について訊かれると、表情を引き締め直してこう話した。
「この10人と同じような練習をやっている選手がまた10人育ちます。タイムもより伸びていくでしょう。ただ、強い4年生が抜けて、究極の実戦練習である大会の経験を積んでいない選手が主体となる。そういう意味では確率は下がるでしょうね。来季は駒大、早稲田大学、中大、ここらの大学は強いです。國學院大も地力をつけている。だから、箱根駅伝に向けてどう選手を育成していくか。各校のメソッド対決になってきたということじゃないですか。もちろんうちも、勝てる布陣を作りあげていきますよ」
直近11年で8度の優勝は伊達ではない。挑む側にとっては、登り甲斐のある高い山だろう。敗れたチームの監督も、視線はすでに来季を見据えている。
國學院大の前田監督は「私自身がもっと上り下りの勉強をしていきたい」と特殊区間の攻略を課題に挙げた。4位に入った早大の花田勝彦監督は「勝つのが当たり前だと思えるチームにしていきたい」と選手の意識改革を促す構えだ。そして今回、1区の吉居駿恭(3年)が作ったリードを生かし、往路2位と見せ場を作った中大の藤原正和監督はこんな驚きの構想をぶち上げる。
「主導権を握るとこんなにも駅伝は楽なのかと感じたレースでした。仮に私たちが10人全員27分台の選手を揃えることができたらどうなるか。次こそ頂点に立つために、往路をもっとハイペースにする高速駅伝を今のところは思い描いています」
指導者たちの熱意にも煽られ、学生ランナーの進化はとどまるところを見せない。主導権を握るための戦いは、1月4日から早くも始まっている。