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「箱根駅伝は分かりません! 黒田が12位です」テレビ実況も“ダマされた”…青学大2区・黒田朝日“12位からの大逆転劇”、記者が見た「最強留学生への戸惑い」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byYuki Suenaga
posted2025/01/03 08:00
青学大2区の黒田朝日(3年)。東京国際大・エティーリ(2年)、創価大・吉田響(4年)とともに、区間記録を更新した
自分の実力を盛ることもしないし、過小評価することもない。いつも自分の状態をストレートに話してくれる。たとえば、「去年と同じ練習をして、同じタイムだったとしても、走り終えての余裕度があるので、去年より強くなっていると思います」といった具合で話す。
足し引きゼロ。そのまま。今回の2区での目標も、
「前回が1時間06分07秒だったので、5分台に突入して区間新が出せたらいいなと思っています」
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と話し、その言葉通りに1時間05分44秒の区間新での区間3位。
途中、走行順で12位に後退したとき、テレビの中継では「箱根駅伝は分かりません。黒田が12位です」という実況があったが、前回同様のレースマネージメントをしているだけで、慌てることはなく、2区が混戦となって、かえって黒田のスマートさが光る展開となったのだ。
「最初に遅く走ったもん勝ち」
そしてもうひとり、エティーリ・ファクターから無縁だった選手がいる。区間17位で後方から走り出した創価大の吉田響だ。彼も自分の走りに集中することができたことで、後半の急激な順位上昇につながった。
ここで平林、篠原、黒田、吉田のチェックポイントでの区間順位を見てみよう。
より早い時間帯でエティーリの影響を受けた平林は途中で順位を上げたことで、終盤に番手を落としている。篠原はエティーリに追いつかれてから並走を決断、それによって後半の伸びを欠いたと見られる。
黒田は12→6→3と順調に上げる見事なマネージメント。そして吉田は溜めて、溜めて、末脚を爆発させて従来の区間記録を上回った格好だ。
このように見ていくと、今回の2区は「最初に遅く走ったもん勝ち」だったのである。
「最後の坂、手を使いたかった」
平林と篠原にも、同じようなマネージメントは可能だったとは思うが、「優勝候補」に挙げられていると、自分の実力だけではなく、相手との「駆け引き」が生まれてしまう。ある程度、エティーリを追走することが利益につながると判断したのだろうが、それがマイナスに働いてしまった。