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「彼がキャプテンを務めたのは特別なこと」トム・ホーバスHCが「最後の代表活動」比江島慎(34歳)にかけた言葉の真意「あれは素敵な瞬間でした」 

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ミムラユウスケ

ミムラユウスケYusuke Mimura

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posted2025/01/11 11:09

「彼がキャプテンを務めたのは特別なこと」トム・ホーバスHCが「最後の代表活動」比江島慎(34歳)にかけた言葉の真意「あれは素敵な瞬間でした」<Number Web> photograph by FIBA

代表での最後の試合となり得るアジア杯予選ではキャプテンも務めた34歳の比江島慎。ホーバスHCが「特別」と評した、ベテランへの想いとは?

 代表戦だから、試合前には国歌斉唱の時間が設けられている。国歌斉唱時の選手の行動は様々だ。富樫勇樹のように目をつぶる選手もいれば、正面を向いて君が代を口ずさむ選手もいる。

 比江島は、これまでと同じように体育館の天井に掲げられていた国旗を見つめていた。国家斉唱時に視線を上げるのには理由がある。

 比江島の一番の理解者ながら、2018年に突然の病に倒れた母親の淳子さんに思いをはせるためだ。自身と兄の2人を女手一つで育てあげてくれた母は、カメラを片手に、どんな遠い会場にも応援に来てくれた。そして、代表戦のときはいつも、国歌斉唱の前後のタイミングでカメラのシャッターを必死で切っていた。

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 写真を撮るために十分な明るさがない体育館も少なくない。その上、比江島には独特な動きで相手をかわす比江島ステップがある。だから、愛する我が子を記録に残そうとしても、大半の写真がブレてしまうのだ。だだ、国歌斉唱の前後のタイミングだけは、その心配がなかった。比江島は動かず、日本国旗を見つめているからだ。

 国歌斉唱のためにみんなが静かにしているスタンドで、国歌の演奏が始まるギリギリのタイミングまでカメラに手をかける母の姿は、比江島の脳裏に今も焼き付いている。それに、当時は今ほど代表戦が人気なわけでもなかったから、会場で母の姿を見つけるのも簡単だった。

 だから、突然の別れ以降は、国歌斉唱のタイミングで国旗を見つめるとき、母のことを思い出してきた。

「お母さんはいつも、僕の味方でいてくれたので。ずっと変わらずに。そんな人が(天国から)見ていないわけがないじゃないですか。そんなお母さんのことを思えば、緊張感も解けてくるし。僕にとってはおまじないみたいなものなんです」

シュートタッチの不調…見せたベテランの妙

 母の力を借りて、今回のグアム戦でも緊張せず、平常心で試合に入っていけた。

 しかし、この日は“運”に恵まれていなかった。試合前のウォーミングアップのときから感じていたことなのだが、3Pシュートのタッチが悪かったのだ。

 バスケは繊細なスポーツだ。試合日の気候や湿度、疲労の度合いなど様々な要素が絡みあい、シュートタッチに影響が出てしまう。シュートタッチが良い日も、悪い日も、そのどちらでもない日もある。例えば、比江島の名前が日本全国に認知された23年のW杯のベネズエラ戦。あの日はシュートタッチが抜群に良くて、ウォーミングアップのときから、打てば入るような感覚があった。

 では、シュートタッチが悪い日は、お手上げなのか?

【次ページ】 「あぁ、代表で戦えた時間は楽しかったなぁ」

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