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「彼がキャプテンを務めたのは特別なこと」トム・ホーバスHCが「最後の代表活動」比江島慎(34歳)にかけた言葉の真意「あれは素敵な瞬間でした」
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byFIBA
posted2025/01/11 11:09
代表での最後の試合となり得るアジア杯予選ではキャプテンも務めた34歳の比江島慎。ホーバスHCが「特別」と評した、ベテランへの想いとは?
比江島慎は、柄にもなく、緊張していた。
もう34歳だ。バスケの試合ではそれほど緊張することはない。小学生のときからあらゆるカテゴリーで日本一に輝いてきたから、エースとしての仕事には慣れている。ただ、今回は違った。代表活動に区切りをつける意向を示したことなどが考慮され、キャプテンを任されていたからだ。キャプテンという大役を担うのは中学生以来。だから、緊張を隠せなかった。
11月21日、宇都宮で行なわれたモンゴル戦。
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このときは、仲間に救われた。ケガのために代表活動を辞退することになった渡邊雄太がティップオフ直前、比江島のユニフォームをTシャツの上に着込んで現れたからだ。自分よりも15cmも高く、10kgも重い渡邊が着ているのだから、自身のユニフォームはパンパンに膨れ上がっていた。
「代表の試合に『来るかも』みたいな話は聞いていたんです。ただ、本当に来ただけではなく、僕のユニフォームを着て……。あれは笑っちゃいました。キャプテンとして試合に臨まないといけないし、自分の中で変な緊張感がありましたけど、あれで、ちょっと緊張がほぐれたんです」
現メンバーのなかでは渡邊と比江島だけは、2016年のリオ五輪世界最終予選に出場している。2人は、あのときから始まった世界大会11連敗という屈辱を味わいながら、あきらめなかった同志である。これまでと違ったのは、渡邊がコートに立っていなかったという事実だけ。それ以外の部分では、相変わらず、頼りになる後輩だった。最後まで「代表引退はダメ、絶対」とイジってきてはいたが……。
「しみじみとして」いたアウェーでのグアム戦
ただ、2試合目はグアムとのアウェーゲームだった。渡邊は所属する千葉ジェッツの試合での復帰戦に向けて最終調整中だったから、当然、来られない。
グアム戦に臨むにあたっては、キャプテンとしての重圧と、12年間も袖を通してきた代表のユニフォームを着て戦う最後の試合になるかもしれないという重い事実がのしかかっていた。だから、試合前日には率直な気持ちを口にした。
「今の時点では、『最後になるかもなぁ』とか、色々なことを振り返りながら、僕はしみじみとしているんです」
そして、迎えた試合当日――。