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「やりたくないならプレーしなくていい」→「彼はわかっている」…今ではコーチも絶賛 バスケ代表・比江島慎(34歳)が“ドン底評価”を覆せたワケ
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byJIJI PRESS
posted2025/01/11 11:05
2021年の中国との親善試合ではトム・ホーバスHCから「気持ちが見えない」と叱責された比江島慎(34歳)。それでもその後の活躍で評価を覆して見せた
実は、当時のホーバスHCは、比江島のことをよく知らなかっただけでなく、ある問題に直面していた。それが、東京五輪後の選手たちのモチベーションの低下だ。
渡邊雄太と比江島は世界大会で2016年からの11連敗を経験しても、2023年のW杯でヨーロッパのチーム相手からの初勝利(vsフィンランド)をもぎとるまで、心が折れることはなかった。
ただ、彼らは例外的にハートの強い選手だったのかもしれない。
日本代表に蔓延ったモチベーションの低下
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2021年の東京五輪以降、日本代表の活動に後ろ向きな選手が続出していた。理由はいくつかある。1つが、当時の状況だ。2019年のW杯から東京五輪まで世界大会で8連敗しており、日本が強くなったとしてもその程度の実力なのだというムードが広まりつつあったと言ってもよいだろう。
さらに、Bリーグのシステムが世界的に類を見ないような、リーグ戦では常に土日に連戦を行なうスタイルであることもネックになっていた。現在はNBAでさえも連戦が行なわれるのは82試合中10試合程度で、肉体的な負荷がかかりすぎる連戦は、世界的に見ても減少傾向にある。にもかかわらず、Bリーグはこのシステムを続けている。
また、この頃からBリーグの選手の年俸は年々増えていった。そのため、一部のチームからは日本代表のスタッフ宛に、代表での練習時間を短くしたり、練習の強度を落としてほしいという連絡が入るほどだった。バスケは同時にプレーできる選手が5人しかいないため、野球やサッカー以上に、怪我人の有無がもたらす影響が大きいからだ。
そのような背景から、「高い給料を支払ってくれるクラブのためにも、勝ち目のない代表チームで活動するのは控えたい」と考えるような選手が一定数出ていた。
ホーバスHCは日経新聞のインタビューで、就任当初の様子を赤裸々に明かしている。
「(就任時に)色々な選手に会いに行ったが、半分くらいから『もうやりたくない。疲れた』と言われて、ちょっとビックリした」
日本代表の魅力の低下というゆゆしき問題があり、ホーバスHCも男子の代表のHCに就任したばかりで比江島のことをよく知らなかった。そして、比江島自身が振り返っているように、あの頃は代表チームへの熱い想いを言葉や態度で表現する選手ではなかった。