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「むしろ自分が力をもらっている」病院訪問に車椅子観戦者招待…カープ磯村嘉孝が自らの手で社会貢献を続ける理由〈チケット発送から駐車場の手配まで〉 

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前原淳

前原淳Jun Maehara

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posted2024/12/16 06:00

「むしろ自分が力をもらっている」病院訪問に車椅子観戦者招待…カープ磯村嘉孝が自らの手で社会貢献を続ける理由〈チケット発送から駐車場の手配まで〉<Number Web> photograph by ASUWA

磯村(一番右)らが立ち上げた「ASUWA」の理事には、橋本英郎(サッカー)、中村美里(柔道)、近江谷杏菜(カーリング)などが名を連ねる

「対面してすごく喜んでいる顔を見られたり、看護師さんから『最近笑顔がなかったけど、今日はすごく笑顔でした』という言葉を聞くと行って良かったなと思う。みんなめちゃくちゃカープのことが好きだし、キャッチャーについて詳しい人もいた。『来年も来てください』と言われると、その人にとって生きる活力になっているならすごくうれしい」

 活動を通して自分が何かを与えている……というよりむしろ、自分が力をもらっていると感じている。だから、磯村は決して「慰問」とは表現しない。

 活動はシーズンオフだけでなく、コロナ禍にあった22年はオールスターブレークにもオンライン交流会を開いた。車いす観戦者の招待も続けている。マツダスタジアムの車椅子席は席数や席種が豊富で、専用駐車場もある。バリアフリートイレは球場屋外含め24カ所設置されている。実際に観戦した母の「こんなにいい車椅子席はないし、これだけ席数があるのもすごい」という言葉も招待活動を後押しした。

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 車椅子の人々が観戦をためらう気持ちもわかるだけに、招待することで彼らの背中を押したかった。招待試合の設定からチケットの手配に駐車場の予約、さらには招待者へのチケット郵送まですべてひとりで行なっている。

「できることは自分でやりたい。球団にお願いすると、誰かの仕事を増やしてしまうことになる。招待試合は梅雨時期を外して、暖かい時期の週末に。車椅子で来ても困らない日を選んでいます。自分では行こうと思わない人たちに、行こうと思ってもらえたらいいなと」

「当たりまえ」に「ありがとう」

 人を思う気持ちは、体だけでなく心も動かす。病院で感じた温もりは手と手が触れたものだけではない。

「いつまでユニフォームを着られるか分からないですけど、こういうことができるからこそ1年でも長く着ていたいと思っている。ユニフォームを脱いでも誰かが継続してくれたらうれしいし、志のある人が増えてくれたらなおうれしい。そういう輪を広げていきたい。プロ野球のユニフォームを着ているだけですごい影響力がある。僕も『そんな大したことないですよ』と思っていたけど、一歩を踏み出す勇気を持ってもいい」

 24年1月には元サッカー日本代表の橋本英郎らと一般社団法人「ASUWA」を立ち上げた。12月25日には石川県輪島市の被災地に向かい、施設で暮らす子どもたちを集めて運動会を開催する予定だという。

「健常者でもひとりで生きて行けないように、弟たちはちょっとサポートしてもらうことがあるだけなんです。自分が活動することで、広島の人々にも手助けが必要な人がいるということを意識してもらい、助け合いの精神がある町であってほしい。困っている人がいると、すっと手助けができる。そういうことが当たりまえにできると、いい町になると思うんです」

「当たりまえ」の対義語は「ありがとう」だという。磯村は笑顔の連鎖を願いながら、より多くの人が当たりまえのことに感謝する気づきとなるよう、これからも活動を続けていく。

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