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“格下の高校生”だった井上尚弥に敗北「試合後、初めて泣きました」後の世界王者たちを撃破“アマ最強ボクサー”は高校教師に…柏崎刀翔の壮絶人生―2024下半期読まれた記事
text by
森合正範Masanori Moriai
photograph byNaoki Fukuda
posted2024/12/24 06:30
アマチュアボクシングのトップ戦線で長く活躍した柏崎刀翔。寺地拳四朗や京口紘人、重岡優大(写真右)をはじめ、のちの世界王者からも勝利を収めている
“怪物に勝つ男”と初対戦「ボコボコにされました」
自宅では、父が毎日のように、試合や練習のビデオをチェックしていた。ある日、初めてサウスポーのアウトボクサーとスパーリングした際、思うように対応できなかった。父は怒りを通り越して、キレていた。高校生の反抗期だったこともあり、酒癖が悪く絡んでくる父に口答えすることもあった。
「もう放っておいてくれ!」
一つ身になったことがあるとすれば、父から「ああしろ、こうしろ」と口酸っぱく言われたおかけで、どうすれば強くなれるかを自分で考えられるようになったことだ。
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そんな折、特別な二つの「大きな山」と巡り合う。高校2年時の佐賀インターハイ。準決勝で対戦したのが、のちにプロで東洋太平洋王者となる同学年の原隆二(静岡・飛龍高)だった。ポイントで敗れ、原はそのまま優勝した。
その2カ月後の国体では決勝まで進んだ。対峙したのが1学年上の林田太郎(千葉・習志野高)だ。林田は駒澤大学進学後、井上尚弥に勝利したボクサーとして知られている。柏崎は2人を前にすると自然と心が燃えたぎってくるのがわかった。熱くなれる対戦相手だった。
「原は小さくてすばしっこい。(林田)太郎さんにはボコボコにされました。本当に強かった。インファイトがうまくて、そこから太郎さんの真似をしたんです」
高校3年となり、プロボクサーと電気工事士の道が現実になってきた。しかし、インターハイの北信越大会と電気工事士の資格試験日が重なり、試験を受けられなかった。すると、高校の先生から声をかけられる。
「おまえ、プロになっていくら稼げるんだよ。大学に行って、教員免許を取った方がいいぞ」
柏崎はプロになるためにボクシングをやってきた。父からも「プロ、プロ」と言われ、「大学は金がかかる。家にはお金がないから無理」とあっさり却下された。だが、先生は父を焼肉屋に連れ出して口説き、「学費免除の推薦なら……」と大学進学が選択肢に入ってきた。