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「おおおぉぉぉ」ラグビー早明戦、なぜ名勝負が生まれるのか? 第100回を終えて考える“赤黒”と“紫紺”の歴史「解説席の五郎丸も田村優も…」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKiichi Matsumoto
posted2024/12/08 17:00
40554人の大観衆が詰めかけた国立競技場。記念すべき100回目の大学ラグビー早明戦は、早稲田に軍配が上がった
「早稲田って、バックスのイメージが強いかもしれませんけど、その時々の陣容に合わせて戦略、戦術を練るのが『早稲田』なんじゃないかと思うんですよね」
なるほど。歴史的にバックスの展開力が光ったのは、バックスに「人材」がいて、その結果だったのではないか、という考え。
「1989年、清宮(克幸)さんがキャプテンの時は、ニュージーランドからグレアム・ヘンリー(後のオールブラックス・ヘッドコーチで、2011年ワールドカップ優勝に導く)がやってきて、10番、12番、13番が短い間隔で立つ『ショートライン』を採用しました。これも縦に強い選手がバックスにいて、なおかつFWが強く、ボールのキープ力があったからです。その清宮さんが監督になってからは、リクルートでもFWの選手を積極的に勧誘して、FWで勝てるチームを作り上げましたよね」
いわば、合理的なのだ。
21世紀、早稲田の指導者で大きな影響力を誇ったのがその清宮である。
「涙を流すために俺はやってる」
情熱の人。そして、周りを巻き込む圧倒的な力は台風の目を連想させる。一方、ピッチでは合理性を突き詰める。今回のメモリアルブックに再録された2006年の記事が興味深い。聞き手は早稲田OBの藤島大さんだ。
――ラグビーはスクラム。持論ですね。
「スクラムが思い通りに組めたら、必ずどこかに穴があく。そのラグビーの理屈を教えてきたんです。同じ人数で、防御網はFBが下がって、外のWTBもキックに備えている。それで穴ができないはずがない」
――こう球を動かせばここに穴ができる、つまり球技としてのラグビー研究も清宮イズムの核です。
「もうそればっかりですよ。相手はこうだからここは抜ける。こうしたらこうなる。それをあうんの呼吸でできるようにする。サインには頼らない。立ち方だけ。右に3人、左に2人というような」
――すなわちセオリー。
「そう。こう立てば抜けるところが2箇所、3箇所で、相手がここを塞いだら、こっちを選択するとか」
このブロックを読んだだけでも、清宮克幸の合理性が浮き彫りになる。ただし、理詰めばかりの人ではない。このインタビューの最後に、こうも語る。
――魂。ただ合理的なだけでは勝てない?
「それじゃあ、つまらない。何でやるのか。究極は、泣くためですね。涙を流すために俺はやってる。そういうことですよ」
知と熱。
これこそが、大西鉄之祐をはじめとした早稲田指導者の哲学である。