Sports Graphic NumberBACK NUMBER
「早明戦の朝はステーキ食べて、京王線に乗って…」“最強のラグビーマン”元木由記雄が語る特別な一戦の緊張感《ラグビー早明戦100回記念》
text by
大友信彦Nobuhiko Otomo
photograph byAFLO
posted2024/11/26 15:00
1990年、1年生で早明戦に出場した元木。この年こそ引き分けたが、在学中の4年間は早稲田に対して無敗だった
そして元木といえば、多くのファンが覚えているのは早稲田の増保輝則とのライバル物語だ。ともに1年から早明戦に出場し、2年で早くも日本代表に選ばれワールドカップにも赴いた。2人は4年間、早明戦に出続けた。特に3年のときは違うポジションながらマッチアップを繰り返し、互いに激しくタックルを見舞いあった。
「やっぱり、相手のエースを止めるのはゲームの鉄則ですから。増保をしっかり止めないと勝てない、という気持ちはずっと持っていました。他の選手にもタックルにいくけれど、増保のことはずっとケアしていた。WTBには外めを押さえるように指示して、カットインで入ってくるところを狙っていました」
1年で初出場した早明戦こそ引き分けに終わったが、大学選手権決勝での再戦では劇的な逆転勝ちで優勝。2年のシーズンは早明戦に16−12で快勝し、大学選手権では決勝で大東大を破り2連覇を遂げた。だが3年のシーズンは早明戦には24−12で勝ったものの、大学選手権では準決勝で法大に苦杯。決勝に進めずにシーズンを終えた。大学のラストイヤーは敗北の悔しさからスタートした。
「シーズンを通しての目標は『法政に借りを返す』ということでした。前の年に負けていたからなおさら、1年を通して気を休めることがなかった。ラグビー以外の気晴らしも、何もしなかったなあ……一度、副将だった藤(高之/HO)と、霞ヶ浦の方へ釣りにいったくらいですね。でもそのときも、行き帰りにはラグビーの話をしてましたね」
厳つい風貌で武闘派のイメージを与えがちだった元木だが、内面は繊細で生真面目そのものだった。法大に雪辱するという目標を掲げ、前年をはるかに超えるメニューを自ら組んで練習量が激増した結果、体重は1年間で10kgも減ったという。
明大は打倒・法大を目標に掲げて1年間を過ごしていた。そして早大はシーズン半ばに帝京大に敗れており、4年連続で全勝同士の早明対決という舞台ではなくなっていた。だが、それらの要素で早明戦の意味が軽くなるわけではなかった。
「向こうが1敗しているからどうだとかは一切考えなかったですね。早明戦の早稲田は別人になる。それは学年を重ねるたびに感じていました。だからこそ、自分の代には絶対に負けたくない、絶対に勝つんだという気持ちで、何週間も前からずーっと緊張していました」
誇りをかけた特別な一戦
早明戦までの成績は関係ない──それは今季の母校にも当てはまることだろう。明大は早明戦に先立つ11月17日、すでに早大に敗れていた帝京大に28−48で敗れ1敗目を喫した。だが、それは早明戦のモチベーションには「関係ない」のだ。
「負けないと気づけないことってあるんです。僕らの場合は前の年の法政戦でした。今年の帝京も早稲田に負けて学んだことを明治にぶつけて、すべての面で上回ってみせた。そもそも早明戦は何が起こるか分からない。それまでの成績は関係なく、自分たちの力を100%出し切った方が勝つんですから。今年の早明戦も絶対に面白いでしょう。特にキャプテンの木戸大士郎には期待したいですね。タフに身体を張る明治らしいキャプテンです」
元木は現在、明大を追う立場にいる。京産大ラグビー部GMとして大学選手権初優勝を目指している。だがその京産大もまた17日には関西学院大に敗れ、関西リーグで4年ぶりの黒星を喫した。元木はそれも勝利への貴重な学びだと考えている。
「やっぱり負けが一番のエネルギーになりますからね。明治は強くなって早稲田と戦うと思うし、京産大もここから強くなって、明治に挑戦したいと思っています」
元木は控えめに笑った。気負いのない、いい笑顔だった。