酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
「涙のDeNAおじさんが周りにアイスを」「山川も甲斐も…」日本シリーズ全戦観戦で見た“下剋上の全て”…貯金42ホークスの異変が起きるまで
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byNanae Suzuki
posted2024/11/10 11:00
史上最大の下剋上を成し遂げたベイスターズ。福岡と横浜、両本拠地の雰囲気はどんなものだったか
初戦は最多勝の有原航平が安定感ある投球で7回零封、対するジャクソンの球はうわずり、4.2回97球、自責点2で降板。時おり雨が降りかかる中、小久保裕紀監督は8回ヘルナンデス、9回オスナという「勝利の方程式」を投入。しかしNPB最高年俸のオスナは最終回に3失点。何とか5対3で逃げ切った。
第2戦はDeNA先発・大貫晋一が乱調で、2.1回62球自責点4で降板。ソフトバンクは4回までに早々と6点を挙げる。先発のモイネロは中盤からDeNA打線につかまり3失点したが、この日は「勝利の方程式」が功を奏した。さらに状態が万全でない近藤健介を初戦で代打に送り、申告敬遠で歩いた以外に使わずに連勝した。一方のDeNAはシーズン終盤、当たりに当たっていたオースティンが初戦で自打球を当てて2戦目は出られず。代役を任された筒香嘉智は4タコと暗い要素ばかりが目立っていた。
ただ、ソフトバンクは第2戦の5回から1人の走者も出せず、5イニングで15のアウトを積み重ねていたのも事実だった。
この時点で異状を感じる人は少なかったが――ソフトバンクはこの「静まり返った打線」のままで、本拠地に戻っていった。
ベイスターズファンは「戻って来いよー」とナインに声をかけていた。ただ2試合の内容から〈まあ、無理だろうけど……〉と内心考えていた人も多かったと推察する。
“口笛騒動”の第3戦から情勢がひっくり返り始めた
その情勢が一気にひっくり返ったのは、10月29日から始まった福岡での3連戦だった。ソフトバンクのファンの脳裏には2020年に巨人を4タテした日本シリーズが浮かんでいたと思うが……。
第3戦、両チームの先発はスチュワートJr.と左腕の東克樹だった。立ち上がりスチュワートJr.は牧秀悟のショートゴロの間に先制を許す。しかしその裏、東もDHで復帰した近藤に先制タイムリーを打たれて、1-1の同点に。
5回、小久保監督は2回以降無失点だったスチュワートJr.を降ろして本来先発の大津亮介を上げる。短期決戦でよく見る「第2先発」だったのだろうが、代わり端、先頭の桑原が大津の球に食らいついて左中間に本塁打を打つ。続く梶原昴希の当たりは二塁への内野安打。動揺したか、牧、オースティンを歩かせた大津は、筒香にあわやグランドスラムという犠飛を打たれた。DeNAは8回にも戸柱恭孝のタイムリー二塁打で突き放した。これに対してソフトバンクは、安打は出るものの本塁が遠く、1対4で敗退した。
DeNA東は初回に失点しただけで7回を投げ切る。途中「口笛による妨害」もあったが、エースらしい投球だった。
「山川打ってないぞ、甲斐も…」
第4戦、ソフトバンクは石川柊太、DeNAは左腕のケイ。石川は4回にオースティンに本塁打を打たれる。以後は立ち直ったのだが、小久保監督は6回、オースティンに打席が回ってくるところで石川を降ろし尾形崇斗にスイッチ。しかし尾形は次の回に宮崎敏郎の一発と桑原の二塁打などでDeNA打線の餌食になった。