濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「一番でいたい。老害と呼ばれてもね(笑)」50歳になった“デスマッチのカリスマ”葛西純が「リングの上なら死んでもいい」と言わない理由
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2024/11/01 11:02
デビュー27年目に入った“デスマッチのカリスマ”葛西純
イスや蛍光灯で殴り合うデスマッチでは、頑丈さ、痛みに対する耐性が通常ルールのプロレス以上に重要だ。筋肉の見栄えよりも実質的な打たれ強さと凶器を駆使するテクニックが重視されてきたのかもしれない。
「でもワークアウトは見栄えのためだけにするもんじゃない。見栄えがよくて、なおかつ動ける体を作らないと。デスマッチファイターだけが例外ってことはないはずでね」
「一番でいたい。老害と呼ばれてもね(笑)」
50歳を迎えて初のビッグマッチ、9月15日のFREEDOMS横浜武道館大会ではタッグマッチで大日本プロレスのアブドーラ・小林と久々に対戦。記者会見では48歳の小林のコンディションについて、厳しい言葉で忠告していた。同世代の活躍ぶりは気になるし「元気がないと寂しくなる」とも。
「伊東竜二もコロっと負けたりするようになって。沼澤(“黒天使”沼澤邪鬼)も変な感じで消えちゃって(ギャンブル依存症で所属の大日本を退団)。まあ元気なのは本間(朋晃。元・大日本プロレスのデスマッチファイター)さんか。でも元気だけど勝ててない。俺はやっぱり一番でいたい。老害と呼ばれてもね(笑)」
とはいえ葛西自身、今のように意識的に体作りをするようになったのは「ここ3、4年のこと」だという。
「コロナ禍でプロレス界全体が興行ができない時期があって。自分も首と腰のヘルニアで休んでたんですよ。その頃はコロナ禍とケガで自暴自棄でね。いざ復帰しますってことになっても、酒浸りで体が緩みきってた。
そこからですよね、意識的にワークアウトするようになったのは。やっぱり悔しかった、そういう自分が。それで体重10kg落として、コンディション整えて。前もワークアウトしてたけど、真剣度で言ったら10分の1くらいでした」
どんなジャンルであれ競技者が体を鍛えるのは当然なのだが、プロレスには特殊なところがある。ボクシングなど他の格闘技は3、4カ月に一度ほどの試合ペースだが、プロレスは月10試合を超える選手もザラだ。もちろんシーズンオフもない。選手の多くは何かしらケガを抱えながら、治しながらリングに上がっている。ジムで肉体を追い込むことが難しい場合もあるわけだ。
なおかつプロレスはキャリアがものを言う。ケガがあり練習が足りずスタミナに不安があったとしても“うまさ”でカバーできたりもする。それも“ベテランの味”なのかもしれない。
「満身創痍、痛いところがあるのは当たり前」
逆に言えば、葛西が「デスマッチの翌日でも傷がパックリ開いてたりしなければジムに行く」のは「騙したりごまかしたくない」からだ。
「自分を騙して“50歳じゃない、レベル50だ”っていうのはいいけど、お客さんを騙したりごまかしたくないんでね」。ベテランの味に頼らない。だから葛西純は最前線を走ることができる。
「プロレスでも他のスポーツでもそうだけど、キャリアを重ねたら満身創痍、痛いところがあるのは当たり前でね。でもそこで“うまくごまかして”、“騙し騙しやる”みたいな感覚は違うなと。それを言うなら“うまく付き合う”なんですよ」