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「こんないい将棋を!」天才少年・藤井聡太13歳vs佐々木勇気21歳に谷川浩司が驚いた日から8年…“一本取った”藤井が竜王戦先勝の要因は?
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph by日本将棋連盟
posted2024/10/18 06:00
セルリアンタワー能楽堂で行なわれた竜王戦第1局
必然の一手なのでその前に指すこともできたが、47分の考慮時間で封じ手をした。藤井の本命の予想手を一晩に考えてみたかったようだ。
封じ手用紙を入れる2枚の封筒には、両対局者は裏の上下の2カ所に署名する。通常は名字を書くが、佐々木は名字と名前を分けて書く「新手」を試みた。
2日目に封じ手が指されると、藤井は9筋の歩を突いて攻めた。佐々木は意表を突かれたようだ。終局後に「一晩も考えたのに読みがまったく外れた。一本を取られた」と語った。ただ藤井は「そんなに良くはない」と思っていた。
その後、藤井が2筋から攻めて敵陣に角が成ると、佐々木はそれを逆用した反撃で馬を取った。藤井は左右挟撃の寄せを目指した。佐々木は穏やかな応手を選ばず、肉を切らせて骨を断つ寄せにいった。自陣の6筋の金を取らせる代わりに、藤井の5筋にいる玉に襲いかかった。最終盤の局面は難解な形勢に思われた。しかし、藤井は鮮やかな決め手を放って寄せ切った。
藤井は竜王戦第1局で117手で先勝した。終局時刻は18時32分。
1図(※外部サイトでご覧の方は関連記事からご覧になれます)は、佐々木の投了後に想定される局面の部分図。後手玉は受けなしで、先手玉は上部への逃げ道が開けていて詰まない。
藤井「一手一手が難しい…よくわからなかった」
両対局者は終局後に、次のように感想を語った。
藤井「一手一手が難しい将棋で、よくわからなかった。最後はうまい手順を見つけて勝ちになりました」
佐々木「一局を通じて受け身だったので反撃を狙っていましたが、そのタイミングを誤りました。悔いが残る手はなかったです」
佐々木は初めてのタイトル戦の対局で、持ち時間を残り4分まで使って戦い、終盤ではいい勝負になったと思ったという。おやつ、封じ手で新手を試み、敗れたが楽しかったと率直な心境を明かした。
竜王戦第2局は、10月19日・20日に福井県あわら市「あわら温泉 美松」で行われる。
前期の叡王戦(藤井叡王−伊藤匠七段)五番勝負では、伊藤が第2局で藤井に公式戦で初めて勝ち、以降を2勝1敗と勝ち越して叡王のタイトルを奪取した。佐々木も竜王戦第2局に勝って五分に持ち直せば、叡王戦の再来も夢ではない。