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「イノウエは危険だ…恐怖心がある」ネリが思わず語った本音…取材記者が見た敗者ネリ“意外な素顔”「井上尚弥は過大評価されている」発言のウラ側―2024年上半期読まれた記事
posted2024/09/20 11:02
text by
田中仰Aogu Tanaka
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
2024年の期間内(対象:2024年5月~2024年8月)まで、NumberWebで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。井上尚弥部門の第2位は、こちら!(初公開日 2024年5月9日/肩書などはすべて当時)。
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思わず時計を二度見た。4月23日、12時45分。13時からの公開練習が始まる15分も前に、“悪童”ルイス・ネリが姿を現す。大幅な遅刻は当たり前で、最悪はドタキャンまで想定していた。帝拳ジムに詰めかけたメディア70人以上の予定をも狂わせてこそ、悪童であるはずだ。
ネリはパイプ椅子に深く腰をかける。かかとまで床につけ、背筋は伸び、膝もきちんと揃えられている。3度のあくびも、律儀に顔を下げながら、であった。
メキシコ人「ネリの人気度は高くない」
編集者からオーダーを受けたのは試合の3週間前だった。「来日から井上尚弥との試合当日まで、ネリを追いませんか? ボクシングに詳しくないからこその『見え方』があると思うので」。はっきりいって無茶ぶりである。筆者はふだん野球記事をメインに担当しており、井上尚弥が日本史上最強のボクサーであること、次の対戦相手がいわくつきの男であることしか知らないのだ。
井上尚弥とネリについて急ピッチで調べなければいけない。長年ボクシングを追うライターや、日本在住のメキシコ人らに話を聞いてみたところ、この試合の論点は概ね次のようにまとめられた。
「ネリはドーピング違反と体重超過の前科を持つ問題児である」
「かつて日本ボクシング界のエースだった山中慎介に勝ったことで、こと日本におけるネリの知名度は高い」
「ネリは粗削りだがパワーがあるボクサー。井上が優位も一発で展開が変わる怖さもある」
意見が割れた部分もあった。井上とネリというマッチアップに対する見解だ。「ネリだからこそ、井上の対戦相手として東京ドームを埋められる」と日本の関係者は口を揃えた。対してメキシコ人の見方はこうだ。「ネリは(同じメキシコ人ボクサーの)カネロやクルスの人気、知名度には遠く及ばない。そんなネリの試合が日本で盛り上がるのは不思議だ」。
ネリを追う中で見えてきたことがある。