Number Web MoreBACK NUMBER
「なぜネリは井上ダウン後、もっと攻めなかった?」敗者ネリの誤算…長谷川穂積が実況席で見た井上尚弥の“壮絶TKO”「実力差がありました」―2024年上半期読まれた記事
posted2024/09/20 11:01
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
2024年の期間内(対象:2024年5月~2024年8月)まで、NumberWebで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。井上尚弥部門の第3位は、こちら!(初公開日 2024年5月12日/肩書などはすべて当時)。
スーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥(大橋)がルイス・ネリ(メキシコ)に劇的な勝利を飾った6日の東京ドーム決戦。井上が初回にダウンし、6回TKO勝ちを収めるというスペクタクルな試合だった。この試合を実況席で見守った元3階級制覇王者の長谷川穂積さんはこの一戦をどう見たのか。長谷川さんが両者の思惑、そして井上の強さをひもとく。
◆◆◆
長谷川さんは実況席から試合の行方を見守った。試合開始のゴングが鳴ると、井上が強烈な右でネリに襲いかかる。長谷川さんは互いのコンディションの良さを見てとったが、同時に井上の“硬さ”も感じていた。
「入場してきたときの表情、テレビカメラに向かって手をクルクル回したりとか、始まる前にグローブをバンバン叩いたりとか、いままであまり見たことがなかった。いい意味で気合いが入っている、悪い意味で気負っていると感じました」
「あそこは、僕の常識だと左ボディなんです」
井上本人も「気負っていた」と認めている。スタートの強振は「ネリを勢いづかせたくなかった」と話しているから、これは作戦の一つということだろう。そして開始から1分40秒ほどのところで、衝撃のダウンシーンが訪れた。
これには長谷川さんも驚いた。
「やっぱりね、マイク・タイソンのことがあるので(1990年2月、ジェームス・ダグラスにまさかのKO負け)、東京ドームはなんか番狂わせが起きる場所なのかなと、頭をよぎりました。ビックリしたというか、僕は当事者じゃないのに焦りました(笑)」
両者が接近した局面だった。井上が左アッパーから右につなごうとした瞬間、ネリの左フックが炸裂したのだ。東京ドームが凍りついたこの場面。長谷川さんの解説が興味深い。