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「石川祐希に悲壮感は一切なかった」男子バレー現地記者が見た、“重苦しい空気”を変えたキャプテンの言葉「自分たちのために戦う」
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph byNaoya Sanuki/JMPA
posted2024/07/28 17:00
黒星スタートとなったパリ五輪。石川祐希はキャプテンとして52年ぶりのメダルに導けるか
敗戦が決まった瞬間、石川は真っ先にチームメイトをコート中央に呼びよせ、円陣を組む。一人一人に、そして自身に言い聞かせるようにチームメイトを見ながら語りかける。
「まずは切り替えて、次の試合に臨もう」
オリンピックのような短期決戦では、いかに敗戦を引きずらず、気持ちを切り替えることができるかが大切になる。石川はそれを世界の舞台で多々経験してきた。
しかも、試合はアルゼンチン戦、アメリカ戦と続く。まだ何も結論が出たわけではない。もちろん悲観することもない。
それを誰よりも実践しているのが石川だった。試合後、ミックスゾーンにあらわれた彼の表情からは、一切悲壮感が感じられなかった。
キャプテン石川が指摘する“余裕”
もちろん、他にも気持ちを切り替えて前を向いている選手はいた。誰もが口々に「切り替える」という言葉を発していた。決して下を向く選手はいなかった。
ただ、一方ではあらためて初戦の難しさや、オリンピック独特の雰囲気、そして死に物狂いで戦ってきたドイツの勢いに圧倒されている印象はあった。
しかし、熱戦直後の高揚感が残る中でも、とくに石川は極めて冷静かつ的確に、淡々と試合を振り返っていく。
「1セット目から自分たちのバレーができなかった。そこは自分たちの弱さだし、オリンピックということで意識しすぎたのかなと思います」
その後、第2、3セットと連取し、日本に流れが傾きかけるも、石川はチームのちょっとした油断を見逃さなかった。
「コートの中で感じたのは、少し勝てる雰囲気が出すぎていたのかなと。余裕を持ちすぎているかなと、いろんな選手の表情を見て感じたので、それは伝えました。ただ、なかなかそれを変えるのは難しかったですね」
石川が感じた“余裕”の正体とは何だったのか。
「軽く考えてるつもりはないんですけど、ブロックされた後も、すぐに切り替えればいいやというか、『これを絶対に取りきらないと』という気持ちに少し欠けていたんじゃないかと思いますね。やはり競った場面になるほど、そういったところは出てくる。そういう部分で隙を見せてしまったんじゃないかなと」
そう語る石川の目にはすでに「次へ」という強い意志があらわれていた。