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「金太郎あめ」。誰が出てもハードワークを厭わない車いすラグビー日本代表が見据える世界一への挑戦 

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矢内由美子

矢内由美子Yumiko Yanai

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photograph byKiichi Matsumoto

posted2024/08/06 11:00

「金太郎あめ」。誰が出てもハードワークを厭わない車いすラグビー日本代表が見据える世界一への挑戦<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

究極の目標は「世界一のプレーヤーになること」と語る次世代エース橋本勝也

 ほろ苦い記憶がある。日本はリオ2016パラリンピックで銅メダルを獲った後、2018年世界選手権で初優勝を飾った。ところが、周囲も自分たち自身も「金メダル」を強く意識して挑んだ東京2020パラリンピックでは準決勝敗退。またしても銅メダルに甘んじた。

「気持ちが強すぎてもうまくいかない。意気込みすぎて結果につながらなかった経験もある。リラックスした状態で、自信を持ってパリに挑みたい」

 あえて淡々とした口調で語る池崎だが、心の中にはやはり期するものがある。

「日本チームにはいろいろなプレースタイルを持つ、個性あふれる人たちがいます。僕らがハードワークする姿や、最後まで諦めない姿勢を見て、応援していただければ嬉しいです」

 最後まで走り抜いた時につかんでいるであろう最高の輝きを思い浮かべるように言った。

「僕が日本代表を引っ張っていく」最年少22歳の次世代エース橋本勝也

 ベテランが冷静に感情をコントロールする中、次世代エースとして期待が高まるチーム最年少22歳の橋本勝也(3.5)は、熱い思いをすべてコートに投影させようと、意気込みを前面に出している。

 今回は東京2020パラリンピックに続く2度目の代表選出。肩、腕、胸板は見た目にも筋骨隆々で、3年前と比べて体格がひとまわり大きくなったという。持ち味は抜きん出たスピードと、急角度で瞬時にコースを変えられる巧みなチェアワーク。

「スペースが空いていたら自分がそこをすべて突破して、自分が全部得点を決めてやるんだという強い気持ちでプレーしています」と語るように、頼もしい存在に成長している。

 車いすラグビーを始めたのは2016年。

「今までこの競技を7、8年くらいやってますけど、やめたいと思ったことは一回もないんですよね。車いすラグビーは僕にとってすごく不思議なものを持っていると感じています」と親しみやすい笑顔で言う。そんな橋本が考える競技の魅力とはどのようなものか。

「車いすラグビーの選手は、障がいの重い選手から軽い選手まで振り幅が大きいのが特徴です。これほど幅広い障がいの選手みんなが一つのコートに集まって激しく戦うスポーツは他にありません。タックルも魅力的ですが、もう少し深掘りすると、この競技の魅力はそこにたどり着くのかなと思います」

 東京2020パラリンピックを経験したうえで、現在は新たな思いも芽生えている。車いすラグビー界の未来を見据えた時に必要となる「世代交代」の旗手となることだ。

「僕が日本代表を引っ張っていくという思いはありますし、徐々に強まっています。ただ、それを考えすぎてしまうと、本来の能力を出せなくなってしまうのが僕の性格なので、あくまで目の前のことをやり続けながら、結果につなげていきたい。先輩方が今まで作り上げてきてくれたものを引き継いでいきたいんです」

 まっすぐ前を向いて力強く言う。

「僕たちが競技に集中して練習ができるのは、日頃から支えてくれる周りの方々のおかげです。それは歴代の選手たちが結果を残してきたからこそ。感謝の思いをもっと伝えていきたいし、結果を残し続けたいと思っています」

 胸に抱いている究極の目標は「世界一のプレーヤーになること」。そのために、「選手としてだけではなく、一人の人間としても、オフコートでもみんなが僕についてきてくれるような存在になっていきたい」と高い志を持っている。

【次ページ】 車いすラグビーが持つ要素が、誰にとっても魅力的な街づくりにつながる

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