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進取の将棋BACK NUMBER
同学年・藤井聡太21歳から「タイトル奪取あるのでは?」伊藤匠の才能をA級棋士・中村太地が語る「“寝て起きたら強くなる”時期に2人は…」
text by
中村太地Taichi Nakamura
photograph byKeiji Ishikawa
posted2024/06/20 06:01
第9期叡王戦で藤井聡太叡王に対して2勝2敗としている伊藤匠七段。中村太地八段が知る強さの背景とは
若手棋士の頃はどうしても、序盤型か終盤型かのいずれかに分かれてしまうもの。たとえば自分の場合は中終盤型の一辺倒だったんです。自分の知っている戦型に関しては問題ないのですが、詳しくない戦型があったことは確かだし、心情的に駒がぶつかってからの勝負の方が好きだったというところがあります。さらには時代背景として……私たちがまだ若手の頃はAIが当たり前にあるような時代ではなく、序盤研究を深めづらいという要因はありました。とはいえ序盤研究が好きで〈ものすごく知識豊富だな〉と感じる棋士が当時からいましたが。
AIによって、序盤に詳しい若手棋士が増えてきたことは疑いようのない事実かと思います。ただし、これは将棋界全体の話になりますが――中終盤については、AIでもいまだにどう鍛えていいか全体的に見いだせていない側面があります。それもあってか中終盤で崩れてしまう人もいることは事実です。
子供のころから人対人で培ったもの、もしくは徹底的に取り組んだ勉強法はそれぞれにあるかと思います。一方で中終盤力をどう鍛えればいいのかというのは簡単なようで永遠のテーマなのです。
努力だけではどうにもならない、才能なのか……と私自身も痛感することでもありますが、そういった力強さを藤井叡王はもちろん、伊藤七段も有していると感じます。
小学校低学年の時から彼の名前は知っていました
伊藤七段に関しては昔から有名で、彼が小学校低学年の時から「三軒茶屋に強い子がいるらしい」という風に聞こえてくるなど、名前を知っていましたし、当時の大会でも顔を見たことがありました。将棋自体をじっくりと見たのは三段リーグ時代(奨励会でプロ昇段となる四段を前にしたリーグ戦)前後でしたが、当時は受けに定評があって「最近は若くして受けが強くて渋い人が多いけど、その中の1人だな」と感じていました。
これもまたAIの影響なのかもしれませんが——若い人の将棋を見ていると、伊藤七段のようにバンバン攻めるというよりも、しっかり受け止める棋風が多いですね。なぜかというとAIを使って分析していくと、単調な攻めだと「無理攻めだ」と認識されつつあって、じわじわとした将棋を選択する傾向が多いのは、実際に感じるところです。
「寝て起きたら強くなる」伸び盛りに2人は…
その中でも伊藤七段は中終盤の力を磨きながら、さらには一番棋力が伸びる時期と言える10代後半から20代前半に充実した日々を送っている。もちろん藤井叡王も同じくなのですが、大きな経験値となるのは間違いありません。
年齢的にこの時期は、棋士にとって伸び盛りと言って過言ではありません。