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“藤井聡太くん大泣き”から10年後「公式戦初対局」までの物語…「高校を自主退学して将棋に専念」伊藤匠と藤井聡太の共通点とは

posted2024/06/21 06:00

 
“藤井聡太くん大泣き”から10年後「公式戦初対局」までの物語…「高校を自主退学して将棋に専念」伊藤匠と藤井聡太の共通点とは<Number Web> photograph by JIJI PRESS/Takuya Sugiyama

伊藤匠新叡王と藤井聡太七冠。“藤井世代”が今後の将棋界をどう引っ張っていくか

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田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

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JIJI PRESS/Takuya Sugiyama

 6月20日、藤井聡太八冠から叡王のタイトルを奪取した「新叡王」伊藤匠。公式戦初対局から話題となった同学年のふたりの歩みと共通点とは――。初対局時の記事を特別に再公開します。【初公開日:2022年9月14日 ※棋士の肩書は当時】

 藤井五冠と伊藤五段には、いろいろな共通点がある。

 藤井は2002年7月19日生まれ。伊藤は同年10月10日生まれ(現時点で最年少棋士)。ともに5歳で将棋を覚えた。藤井は地元の愛知県瀬戸市の将棋教室に通い、同県出身の杉本昌隆八段の門下に入った。伊藤も同じく東京都世田谷区の将棋クラブに通い、師範の宮田利男八段の門下に入った。

 両者は高校時代、将棋に専念するために高校を自主退学した(藤井は3年時、伊藤は1年時)。

 伊藤は2010年の全国小学生倉敷王将戦・低学年の部で準優勝した。同じく出場した藤井は上位に勝ち進めなかったが、2011年の同王将戦で優勝した。

小学生の頃から藤井について「あの子、強いよ」

 2012年1月に小学館学年誌杯争奪全国小学生将棋大会が都内で開かれ、藤井と伊藤が代表となって出場した。藤井の強さをすでに知っていた伊藤は、友人に「あの子、強いよ」と言ったという。藤井と伊藤は小学3年の部で勝ち進み、両者は準決勝で対戦した。そして、伊藤が勝った。

 負かされた藤井がわんわんと声を上げて大泣きすると、同伴した母親は平然とした様子で見守っていたという。負けて泣くのは、いつものことだった。その後、藤井は3位決定戦で泣きながら指して勝った。審判長の森内俊之名人が入った記念写真には、表彰状を持った伊藤(準優勝)、泣きはらした顔の藤井らが写っている。

 藤井は2012年9月に奨励会(棋士養成機関)に6級で入会。伊藤は2013年9月に奨励会に6級で入会。伊藤は1年後れの入会だったが、以後の昇進ペースで藤井に大きく引き離された。藤井が2016年9月に最年少記録の14歳2カ月で四段に昇段して棋士になったとき、伊藤はまだ初段だった。

 藤井は公式戦デビューから最多記録の29連勝を達成した。メディアはその快進撃に注目し、小学生時代に伊藤に負かされたエピソードを取り上げた。伊藤は「藤井を大泣きさせた」として話題になった。ただ本人にとっては過去のことだ。現実を見ると、悔しさだけが募ったに違いない。

藤井の中学生での棋戦優勝を記録係として見た

 2018年2月、朝日杯将棋オープン戦の準決勝・決勝の対局が都内ホールで公開で行われた。

 藤井五段は羽生善治竜王、広瀬章人八段を連破し、中学生で初の棋戦優勝という快挙を果たした。その対局で記録係を務めたのが伊藤三段だった。伊藤は同じ中学生として、多くの報道陣に囲まれた藤井を複雑な思いで見たことだろう。

【次ページ】 四段昇段時の決意、NHK杯での「非凡な着想」

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