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大相撲“最速優勝”のウラで…師匠(元稀勢の里)が苦言「豊昇龍に3回、同じ負け方」大の里23歳とは何者なのか?「三敗の優勝でいいと思うなよ(笑)」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byJIJI PRESS
posted2024/05/27 17:30
大相撲5月場所、史上最速優勝を決め、観客から拍手を受ける大の里(23歳)
「番付は考える力のランキングです。横綱とは、いちばん考える力士です。能力があれば、誰でも関脇にはなれます。逆に、考える力がなければ大関にはなれず、関脇止まりなんです」
二所ノ関親方にとっては、豊昇龍相手に同じような負け方をした大の里に対して、苦言を呈したかったのだろう。そのあと、
「鯛の注文、どうしようかな……」
とユーモアをまじえつつ、嘆息していた姿には、思わず笑みを誘われてしまったが。
「優勝しても喜ぶな」2つの意味
しかし、大の里は崩れなかった。
親方から「優勝はないぞ」と厳しい言葉をかけられたが、十二日目以降、宝富士、宇良、湘南乃海、阿炎とそれぞれタイプの違う相手をまったく寄せ付けなかった。琴櫻が後退したことで優勝争いで優位に立ち、千秋楽を前にして親方から掛けられた言葉は、「優勝しても喜ぶな」というものだった。
これにはふたつの意味があると思う。
ひとつは、戦ったばかりの相手が眼前にいる。優勝して喜ぶ姿は、相手に対して非礼ともなる。このあたり、勝っても喜びを抑え、相手を讃えるラグビーの思想と近しいものがある。先代の鳴戸親方(元横綱・隆の里)から礼を仕込まれた二所ノ関親方とすれば、弟子に伝えるべき重要なメッセージである。
そしてもうひとつは、この優勝がゴールでもなく、目的でもないことだ。大の里は土俵下での優勝インタビューで、
「強いお相撲さんになっていきたいなと思います」
と言葉をしめくくったが、まだ入門して一年ちょっと、七場所目での優勝だけに上積みが期待できる。
元横綱若乃花も評価
振り返ってみると、プロになっての二場所目、去年七月の名古屋では4勝3敗と思ったほど星が上がらなかった。土俵際まで攻め込みながら、突き落としなどで逆転されることが多かったのである(その傾向は十両、そして幕内に上がったあと、先場所まで続いた)。
しかし今場所、立ち合いでの圧力は増した。二所ノ関親方は常々「力士には立ち返る『型』が必要です」と話すが、大の里は圧力のある立ち合いから右差しを狙いつつも、左からのおっつけ、はず押しが使えるようになってきている。
千秋楽の阿炎との相撲を受け、日刊スポーツの「若乃花の目」(中日スポーツの北の富士コラムが中断している現在、もっとも楽しい相撲コラム)において、元横綱若乃花は大の里をこう評価している。