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「いまは有望な子ほど進学」「プロとアマの実力差がなくなり…」大相撲の“若手台頭”は喜ばしいだけではない? “番付の権威”が揺らぐ現状
posted2024/05/21 11:00
text by
荒井太郎Taro Arai
photograph by
JIJI PRESS
先の春場所は尊富士が110年ぶりとなる新入幕優勝を成し遂げ、相撲ファンのみならず日本中で世紀を跨ぐ大快挙が大きな話題となった。番付も東前頭17枚目という幕内42人中、“ランキング”は最下位にもかかわらず、大関、関脇、小結の3人の役力士を撃破しての13勝は、堂々たる成績である。
尊富士の新入幕優勝も“奇跡”とは言い切れない?
土俵はニュースターの誕生で活気づいたが、一方で新入幕力士に賜杯をさらわれた上位陣にとっては屈辱以外の何物でもない。今場所は大関以上の看板力士が先場所の雪辱を果たさなければならなかったが、初日は1横綱4大関が全滅。2日目は横綱照ノ富士、大関貴景勝が休場(不戦敗)となり、大関豊昇龍は連敗スタートとなった。カド番の大関霧島は序盤から黒星が大きく先行して休場するなど、先場所同様、“下剋上”の様相を呈している。
角界には横綱を頂点とした番付という厳然たる実力の序列が存在する中で、尊富士の功績は歴史的に見れば“奇跡”であるのだが、ここ最近はそうとも言い切れない現象が頻発している。
昨年名古屋場所は新入幕の伯桜鵬が14日目終了時点で、関脇豊昇龍、北勝富士とともに3敗で優勝戦線のトップに並んだ。当時の伯桜鵬は、幕下15枚目格付け出しのプロ入りから4場所目の19歳。千秋楽は勝てば北勝富士との優勝決定戦に進出であったが、大関取りが懸かる豊昇龍の上手投げに屈した。
「勝つために準備して勝てなかったのが悔しい。豊昇龍関が自分より強い。それが結果なので、稽古して強くなるしかない」と最後は力尽きたが、初めての大舞台にも決して雰囲気に飲み込まれなかったのは、さすがは10代ながら“怪物”と言われた新鋭である。
翌秋場所は幕内通算2場所目で、この場所が5場所ぶりの再入幕だった熱海富士が1敗の単独トップで終盤戦に突入。12日目から関脇大栄翔、大関貴景勝に連敗したが、最後まで優勝戦線をけん引した。千秋楽の朝乃山戦に勝てば優勝だったが、完敗すると貴景勝との優勝決定戦にも屈し、初賜盃は一歩及ばなかった。