Sports Graphic NumberBACK NUMBER
<龍角散presents エールの力2024③>「ぼくは日本をバスケットの国にしたい、できますよ」。トム・ホーバスは大歓声の力で日本人プレーヤーを輝かせる
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph byAFLO
posted2024/06/07 11:00
そう言ってホーバスHCは、21年東京で銀メダル獲得に大きく貢献したひとりの選手の名前を挙げた。高い確率で3ポイントを決め、チームの得点源となった宮澤夕貴だ。
「ぼくは彼女が18歳のころから知っているけど、当時はちょっと甘さがあったから厳しくコーチしました。そうしたらメンタルが強くなっていって、『やってください』と言うと『やります』と自信のある答えが返ってくるようになった。だから、いまの宮澤選手はものすごく強いんです」
ホーバスHCの英語思考の日本語は、ときに誤解を招きかねない。実際に沖縄でのオーストラリア戦では、タイムアウト中に司令塔の河村勇輝に「言い訳!」と頭ごなしに一喝したことが話題となったが、試合後に「ごめんなさい」と謝ったことを報道陣に明かした。
まちがいがあれば、素直に認めて謝る。謝ることもコミュニケーション。それによって互いの信頼はさらに強くなる。これもホーバスHCならではのマネジメントだ。
あえて強い言葉で、「ああ、言われなくてもやってやるよ」という反発にも似たリアクションを引き出すホーバスHCのコーチング。それはすべての選手が積極的にシュートを狙う、男子日本代表の試合運びに欠かせないものといっていい。
「バスケットは日本のメインスポーツになりますよ」
「いまの代表選手はほとんどがBリーグでプレーしていますが、所属チームのオフェンスで最優先されるのはたいてい外国人選手です。日本人はオプション3か4で、ファーストオプションではない。でも日本代表では、外国人に任せればいいというマインドセットではダメ。ぼくは全員がファーストオプション、みんなの力を使いたいんです。だからぼくは空いているならシュートを打たないと怒る。打った結果、落としてもそれは関係ない。シュートを打つという積極的なマインドセットが大事なんです」
ホーバスHCのアプローチによって、沖縄ではコートに立つすべての選手が能力を存分に発揮し、パリへの道が切り拓かれた。
3年前の東京は無観客だったが、今夏のパリはファンの大歓声に包まれる。ホーバスHCはその先に、輝ける日本バスケット界の明日を思い描いている。
「ぼくたちがいいプレーを見せて、いい結果を出したら、バスケットは日本のメインスポーツになりますよ。もっともっとお客さんが増える。ぼくは日本をバスケットの国にしたい。できますよ、できるできる」
そのためにファンにはどんな声を望みますか?
最後にそうたずねると、ホーバスHCは人懐こい笑顔を浮かべて言った。
「日本の人たちは他の国に比べて、あまり声を出さないじゃないですか。でも沖縄はちがった。すごくラウド、うるさいくらい。だから、自然に自分の気持ちを出してくれるだけで十分です。その大歓声の中で、ぼくたちはスピードがあって、ものすごく面白いゲームをします。うわー! すごい! 面白い! そんなリアクションが見られたら、もう最高です」
トム・ホーバスThomas Hovasse
1967年1月31日生、アメリカ・コロラド州出身。ペンシルベニア州立大学卒業後、ポルトガルリーグ、日本リーグなどでプレー。現役引退後の2010年、JX-ENEOS(現ENEOS)サンフラワーズのコーチ就任のため再来日。以来、女子日本代表でもコーチを務め、2017年女子日本代表ヘッドコーチに就任、2021年の東京五輪銀メダルに導く。2021年9月より男子日本代表のヘッドコーチを務める。