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<龍角散presents エールの力2024③>「ぼくは日本をバスケットの国にしたい、できますよ」。トム・ホーバスは大歓声の力で日本人プレーヤーを輝かせる
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph byAFLO
posted2024/06/07 11:00
バスケット人気が高い沖縄でのワールドカップは、声援の威力をまざまざと見せつける格好の舞台となった。
ベネズエラ戦では終盤3ポイントを立て続けに決めた比江島から、指3本を突き出すセレブレーションが飛び出した。日ごろ感情をあまり表に出さない、あの比江島が。これが大声援の力である。
バスケットで信じられないくらい流れが変わるのは、この競技が室内で、また大観衆の目の前でゲームが行なわれるからだ。大歓声はアリーナに反響し、ダイレクトにプレイヤーの鼓膜を揺さぶる。だから、HCはたいへんだ。大歓声に負けない大声で、選手に指示を出さなければならない。
試合後、のどは大丈夫ですか? とたずねるとホーバスHCは即答した。
「全然大丈夫じゃないです。アリーナはとてもうるさいから、大声を出さないとだれにも聞こえない。だからもう、試合の次の日はほんとに声がおかしいです。声が出ないときもある」
21年東京でも、23年沖縄でも、ホーバスHCはコートサイドで、ベンチで、そしてロッカールームで叫び続けた。
「ターンオーバー! なんで!?」
「わかってないんだったらダメだよ! 簡単なことじゃないですか!」
「集中して! 強く!」
その背景には、外国人HCでありながら日本語の通訳を置かないユニークなスタイルがある。
強く選手の心にぶつかって、熱を呼び覚まそうとする
「ぼくが日本語の通訳を置かないのは、選手と直接コミュニケーションしたいからです。でもぼくは、日本語を100%わかっていないから、きれいにできない」
オンラインで行なわれた今回のインタビューも、例によって通訳なしで行なわれ、そのためホーバスHCが「それはどういう意味ですか?」と質問の意図を確認することが2、3度あった。
それでも彼は、通訳を置かないスタイルを貫く。なぜか。
「ぼくのスタイルは、選手のリアクションを引き出すために、たまにわざとやっているところがある。練習や試合で、ぼくは選手に厳しいことを言うときがある。その言葉で選手が下を向いてしまったら、ワールドカップのプレッシャーに勝てるはずがないじゃないですか」
英語を母語とするホーバスHCの日本語は、私たちが使うそれよりもかなりストレートだ。強く選手の心にぶつかることで、彼らの熱を呼び覚まそうとしている。
「ぼくが『やってください!』と選手に言うとき、こういうリアクションを待っています。(胸を張って)『うん、やりますよ』とか『やるよ』という反応。それがぼくは好き。そういうメンタルがタフな選手を求めているんです」