大相撲PRESSBACK NUMBER
「いまは有望な子ほど進学」「プロとアマの実力差がなくなり…」大相撲の“若手台頭”は喜ばしいだけではない? “番付の権威”が揺らぐ現状
text by
荒井太郎Taro Arai
photograph byJIJI PRESS
posted2024/05/21 11:00
夏場所9日目を終えて7勝2敗と、初優勝に向けて好位置につける大の里。日体大卒業後、幕下付け出しからわずか6場所で三役まで駆け上がった
「熱海富士関が優勝争いをして、悔しい気持ちもある。自分も早く優勝争いをやってみたい」
年下の兄弟子が躍動する姿を目の当たりにした尊富士は当時、まだ幕下だったにもかかわらず悔しさを露わにすると、そのわずか3場所後、本当に“大仕事”をやってのけてしまった。
「いまは有望な子ほど進学」番付の権威が揺らぐ理由
大相撲は他のプロスポーツよりも、プロとアマの実力差が圧倒的に大きいと言われてきた。いわゆる“たたき上げ”と学生相撲出身者とでは、鍛え方が根本的に違っていたからだ。アマチュアでいくら大きな実績があろうとも、関取と言われる十両以上には通用しないというのが、少なくとも昭和時代までは“定説”だったが、いまは大相撲の根幹をなす番付の権威が揺らぎ続けている。
ADVERTISEMENT
長く三役で活躍したある親方は「いまは素質があって有望な子ほど、高校、大学に進学するので、自然とアマチュアがレベルアップしてきている」と指摘する。加えて「新弟子の人数が減ってきているのも大きい」とも話す。どのスポーツでも裾野の人口拡大が、その競技の全体的なレベルアップにつながるのは自明の理だ。
「番付上位に絶対的な“型”を持った力士が少ないのでは」という声も角界内外から少なからず聞こえてくる。現役時代の横綱白鵬に右四つがっぷりの胸を合わせる体勢で勝てる力士は、ついに現れなかった。怪力で鳴らした魁皇も晩年は満身創痍ながら、左四つの型があったからこそ、大関として39歳直前まで土俵を務めることができた。
相撲は防具を一切身につけないコンタクトスポーツである故、力士にケガは付き物。本場所は年6場所、2カ月に1回はやってくるため、毎場所常にベストなコンディションで臨めるわけではない。“型”がなければ、好不調の波がそのまま成績に反映されることは想像に難くない。結局は番付に関係なく、その場所で一番調子がいい力士が賜盃を手にしているのが、昨今の傾向と言えるのかもしれない。だとすれば、ケガの蓄積がまだ少ない素質のある若手力士にも、大いにチャンスがあるということにもなる。