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ボクシングPRESSBACK NUMBER
井上尚弥vs.ネリ「いつもの尚弥選手とは違っていた?」元世界王者・飯田覚士が人生初ダウンを分析…2度目の被弾を許さなかった“断固たる決意”
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2024/05/09 17:01
ネリを6回TKOでくだした世界スーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥。注目の一戦を元世界王者・飯田覚士氏が徹底解説した
「パンチに力みがあって、右を打ちに行く前に合わされています。見定めてない段階で無理に打ち合おうとした点を見ても、いつもの尚弥選手とは違っていました。逆にネリ選手としては作戦どおりじゃないですか。タパレス選手が尚弥選手にやったように慎重かつしっかりと(パンチの)タイミングを合わせるという意識にプラスして、ワイルドにも行く。つまりは自分からも怖がらず仕掛けていく。時間が経てば経つほど距離とタイミングを把握される以上、無理は避けながらもなるべく早めに勝負したい。慎重かつ積極的な姿勢によってあの尚弥選手からダウンを奪ったわけです」
ダウン後の処理は完璧
残り時間は1分以上もある。ネリも再開と同時に一気に前に出てくるが、クリンチや足を使ってネリの追撃を回避する。逆に詰められたコーナーでアッパーを合わせるなど、ネリが得意とする回転力のスイッチを押させなかった。
「呼吸を整えてカウントが進んでから立ち上がっていますから、ダウンによるダメージはある程度あったと見ていいでしょう。とはいえ、ダウン後の処理は完璧でした。ネリ選手は仕留めようと思ったに決まっています。でも横に回られて、反撃もされて、自分の想定の上を行かれたはず。絶対に仕留めたかったのに捕まえきれなかった。そしてもう一つ、尚弥選手が気負っていたとは言いましたが、相手の戦い方に対応するよう修正作業もしっかりやっていました」
一体どういうことか。飯田が言葉を続ける。
「昨年7月に(スティーブン・)フルトン選手と戦ったように、L字ガードではありませんでしたがアップライトで構えてスタートしました。でも思った以上にスピードを感じたんでしょうね。アップライトで引っ張ることをせず前重心の構えに切り替えていましたから」
気負いに、どっぷり浸かっていたわけではないということ。
ダウンをして目が覚めたのではない。気持ちの高ぶりを抑えつつ、コントロールしていく過程でネリの左フックをもらってしまう形になった。だからこそ生涯初めてキャンバスに手をついても、動揺の色はなかった。
2度目の被弾は許さないーー断固たる決意
仕留めるチャンスを逃がしたネリと、代償を払いながらも図るべき修正がはっきりと見えた井上。この差が次のラウンドにあらわれることになる。