「尚弥選手はしっかりとジャブを突くところに立ち戻りましたよね。次の修正は、距離でした。半歩、距離を遠くして戦い始めた印象です。打ちにいくとき、踏み込む距離を10cmほど浅くして少し腰折れ気味の打ち方になるというか。そうすることでネリ選手のフックに対応しやすくする。通常の距離でもし捕まってしまうとブロックして避けなければなりませんが、足を後ろに残しておけば（上体を後方にそらせる）スウェーをすればいい。多少腰折れになろうが、下半身と体幹がしっかりしているからパンチの威力がそがれることもありません。この修正は一つポイントになったと思います」

　2度目の被弾は絶対に許さない。

　断固たる決意が井上の体からにじみ出る。ネリのセカンドチャンスを封じ込める流れから反撃ののろしを上げるダウンが生まれる。ネリが前に出て大振りの左フックを振ったその打ち終わりに左フックを合わせて尻もちをつかせた。井上とは対照的にネリはダメージがないとばかりにすぐ立ち上がってきた。

2回にネリからダウンを奪い返した井上尚弥　©︎Naoki KItagawa

ネリにダメージはあった？

「打ち終わりは絶対にガードががら空きになっているので、そこに合わせる練習はいろんなパターンでやってきたはず。尚弥選手の場合“練習からやってました”みたいな感じじゃないんですよね。自然に出たんじゃないかって思えるくらい自分のものにしている。そう思えたダウンシーンでもありました。ネリ選手にダメージはあったと思います。パンチ力あるなって実感したでしょうね」

　2ラウンドを終えて、採点としては両者が1つずつダウンを奪ってのイーブン。それはまだ、激闘の序章に過ぎなかった――。

＜後編に続く＞