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ボクシングPRESSBACK NUMBER
悪童・ネリの体重超過に「僕の心は崩壊していました」…山中慎介が初めて明かした“あの再戦前夜”の真実「悔しくなって、もうその繰り返しで」
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2024/04/29 17:05
ルイス・ネリと2度拳を交えた“神の左”山中慎介。Number最新号に掲載された『山中慎介 悪童・ネリと闘った189日間。』で当時の思いを語っている
ネリとのリマッチを翌日に控えた2018年2月28日、都内の会場でWBC世界バンタム級タイトルマッチの前日計量が行なわれた。
先に体重計に乗ったネリが2.3kgオーバーとのアナウンスがあると、山中の「ふざけるな!」という怒声がとどろいた。その直後に前王者が200gアンダーでパスして、体重計に乗ったままネリをにらみつけた。結局、2時間の猶予を与えられた再計量も1.3kgオーバーとなり、ネリの王座ははく奪された。
ここまでのストーリーはよく知られている。
引退を決めた後のインタビューを記した2018年のNumberにおいて、前日計量後の様子を筆者はこのように書いている。
《それでも怒りを引きずることはなかった。計量後、気心の知れたスタッフとの夕食ではいつもの明るい山中に戻っていた。
「もちろん体重超過で王座はく奪なんて、悔しかったですよ。最後の試合やし、ネリとちゃんとした試合をやりたかった。でも悔しさを引きずったままだと自分のボクシングが崩れると思って、ひとまず忘れようと。自分の調整だけを考えたんです」
しっかり睡眠を取って、当日のコンディションを仕上げた。ウエート調整を含めて万全の準備はいつも変わらぬこと。それがボクサーとしての最低限の義務であり、礼節。山中にはそのポリシーが強い。》
本人の証言に基づいた記述だ。明るく振る舞って夕食を口にしていたことは関係者からも聞いていた。だが、ホテルの自室で一人きりになったときの事実はまるで違っていた。
ずっと、ずっと泣いていたのだ。悔しさを引きずったままだったのだ。
「あのときの僕の心は正直言って崩壊していました」
ここで今回のノンフィクション記事を一部抜粋したい。
《妻からの証言を本人にぶつけると、認めるようにゆっくりと頷いた。
「当日まで泣きじゃくっていました。妻からの電話もそうですけど、テレビをつけたらそのニュースが流れてきてまた悔しくなって、もうその繰り返しで。僕がまだ若かったら違う反応だったかもしれません。でも開き直ってというのは難しくて、あのときの僕の心は正直言って崩壊していました」
体重差を考えればリスクしかない。だが当日リミットとして設けられた58.0kg以内をネリがクリアできれば、戦うことに異論はなかった。ただこの時点で気持ちが切れてしまっていたことは否めなかった。》