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ボクシングPRESSBACK NUMBER
悪童・ネリの体重超過に「僕の心は崩壊していました」…山中慎介が初めて明かした“あの再戦前夜”の真実「悔しくなって、もうその繰り返しで」
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2024/04/29 17:05
ルイス・ネリと2度拳を交えた“神の左”山中慎介。Number最新号に掲載された『山中慎介 悪童・ネリと闘った189日間。』で当時の思いを語っている
勝っても負けても引退と決めていた。落ちにくくなった減量との戦いを含めて心身ともに「いっぱいいっぱい」だった状況は、今回のノンフィクション記事に記している。それでもいつものようにきっちりと仕上げた。前日計量で仕上げとなる気持ちのスイッチを押すところで、あの2.3kgオーバーがあった。体重計に乗ってネリをにらみつけた時点で、山中のなかで勝負は終わっていたのかもしれない。
レコード上に残らない真の強者は山中慎介である
山中と親交の厚い元3階級制覇王者・長谷川穂積にも今回、話を聞くことができた。前代未聞の体重オーバーが、いかにナンセンスかを語ってくれた。記事にも掲載した彼の言葉を記しておきたい。
「今振り返っても納得はいかないです。100g、200gオーバーならしゃあないってこともないですけど、2.3kgって落とす気ないって言ってるようなもん。ボクサーというのは最後の2週間がとりわけ大事。山中くんが減量のために調整するところを、ネリはおそらくほぼほぼ全開で動けていたはず。それだけでも全然違うし、まったくフェアじゃない」
リマッチは結果だけ見れば、4度倒されての2回TKO負け。この試合を詳細に語ることは意味をなさない。
崩壊していた心をつなぎ合わせて、リスク承知でネリに対峙した。それは歴史あるWBCバンタムのベルトを12度も守ってきた山中慎介のプライドにほかならなかった。
敗者に注がれた、両国国技館に響き渡った、あの大「慎介コール」。神の左に、もう涙はなかった。顔を上げて花道を引きあげていく姿は、今もなお目に焼きついている。
レコード上に残る勝者はネリであっても、レコード上に残らない真の強者は山中慎介である。事実を掘り下げていくことで、そこにたどり着くことができた。
1万字に及ぶ長い原稿を書き上げた後、筆者の心にずっとへばりついていたものが取れた。そんな感覚になった。
<《山中慎介・ノンフィクション抜粋記事》編に続く>