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「メンバー外で腐っている暇はない」“テレビに映らない大阪桐蔭の練習風景”元主将が明かす…甲子園最多69勝・西谷浩一監督の準備力とは
text by
間淳Jun Aida
photograph byHideki Sugiyama
posted2024/04/15 17:05
甲子園最多勝利監督となった大阪桐蔭・西谷浩一監督。主将経験者が知る“名門校のチームビルディング”とは
昨年も絶対的エース前田悠伍投手(現ソフトバンク)が先発した試合でも、他の投手が1回から順番にブルペンで投球練習していた。ドラフト1位で指名される投手であっても例外はない。
「ケース21」という伝統的な練習メニュー
どんなに信頼を置く投手でもアクシデントが起こり得る。不測の事態への備えが勝利の確率を高めると西谷監督は考える。想定と準備なくして、甲子園の通算勝利数更新は成し遂げられない。2012年の大阪桐蔭でキャプテンを務めた水本弦さんは「様々な状況をイメージして、その中でも最悪の想定をしてから試合に入っていました」と語る。
水本さんが主将を務めた同年には藤浪晋太郎(現メッツ傘下3A)、森友哉(現オリックス)らを擁して甲子園で春夏連覇を成し遂げているが――そのスタイルは当時から継続されている。
大阪桐蔭が伝統とする練習に「ケース21」というメニューがある。
試合で起こり得る状況を細かく設定し、アウトカウントや走者に応じた打撃、守備、走塁の精度を高める。試合での想定外が起きる確率を可能な限り排除し、重要な局面でも練習通りにプレーする。準備不足が焦りや混乱の要因となるためだ。
チーム練習の大半は実戦的な内容になる。そして、チーム全体に西谷監督の考え方が浸透する背景には、1学年20人前後と少数精鋭のチームづくりがあると水本さんは指摘する。
「入部したばかりの1年生が3年生のレギュラークラスと一緒に練習できるところが大きいと思います。もちろん、大阪桐蔭には全国から良い選手が集まってきますが、最初は能力に頼っている選手が多いです。先輩たちと一緒に練習することで、勝つために必要な考え方やプレーを学んでいきます」
特別な練習をするのではなく、実戦の中でいかに…
選手は1年生から3年生まで、基本的に全員一緒に練習するという。1年生はシートノックで走者をしたり、シート打撃で守備に就いたりする。主力選手が状況に応じて、どんな判断やプレーをするのか肌で感じる。指導者や先輩たちの話にも耳を傾け、知識を吸収していく。水本さんは言う。
「高校1年生から全国トップクラスのレベルを知って、経験できるところがチームの強さにつながっていると感じます。大阪桐蔭は打撃のチームと思われがちですが、西谷先生は守備と走塁がすごく細かいです。特別な練習をするのではなく、実戦の中でいかに力を発揮するのかを突き詰めていきます」
大阪桐蔭では「一打二進」という言葉を掲げている。