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「メンバー外で腐っている暇はない」“テレビに映らない大阪桐蔭の練習風景”元主将が明かす…甲子園最多69勝・西谷浩一監督の準備力とは
text by
間淳Jun Aida
photograph byHideki Sugiyama
posted2024/04/15 17:05
甲子園最多勝利監督となった大阪桐蔭・西谷浩一監督。主将経験者が知る“名門校のチームビルディング”とは
単打の当たりでも二塁を陥れたり、一塁走者が単打で三塁まで進んだりする心構えを意味する。走塁では相手の隙を突いて1本の安打で2つの塁を狙い、守備では先の塁に到達させない。わずかな準備や動きの差が、最終的な勝敗に表れる。
メンバー外の選手が腐っている暇はないです
もう1つ、水本さんが強さの理由に挙げるのがチーム内競争だ。
大阪桐蔭は平日のメニューにも入るほど紅白戦が多い。西谷監督は控え選手にアピールの場をつくる。不動のレギュラーだった水本さんであっても「メンバー外の選手が紅白戦で2打席連続本塁打を打つことも日常的にあったので、レギュラーも安泰ではありません。西谷先生はチャンスをたくさん与えるので、メンバー外の選手が腐っている暇はないです」と危機感と隣り合わせだった。
紅白戦だけではなく、その日の練習メニューが書かれたホワイトボードにも競争心や危機意識をくすぐられた。ボードにはシートノックの守備位置やフリー打撃の順番も記されており、その内容で自身の評価が分かる。水本さんは「常にチーム内で競争して緊張感がありました」と振り返る。
今センバツ、大阪桐蔭のベンチが慌ただしくなった時が一度だけあった。準々決勝の報徳学園戦の5回だった。大阪桐蔭は2死から8番・宮本楽久選手がショートへの内野安打で出塁する。球場には「9番、ピッチャー平嶋くん」のアナウンスが響く。平嶋は打席に入る直前、立ち止まってベンチを見る。
平嶋はバットを持ってベンチに下がり、代わりに背番号17の内山彰梧選手がバッティング手袋をつけながら駆け足でベンチから出てきた。そのままバッターボックスに向かおうとすると、ネクストバッターズサークル近くにいたチームメートに声をかけられる。内山はマスコットバットで2度、急いで素振りしてから打席に向かった。結果は、フルカウントから見逃し三振。大阪桐蔭は無得点に終わり、その後も見せ場をつくれなかった。
センバツの敗戦後、西谷監督が語っていたこと
この試合、大阪桐蔭は失点につながる2つの失策を記録した。今大会3試合で計5失策と守備のほころびが見受けられた。報徳学園のような好投手を擁する相手からは大量得点が難しい。守備の乱れが致命傷になると西谷監督は痛いほど分かっている。
「夏への課題が詰まったゲームだったと思います。粘り切らないといけない時に守りのミスが出て、自分たちのリズムにできませんでした。1点差で相手にプレッシャーをかけてひっくり返す展開に持っていくしかないと思っていましたが、その前に失点してしまいました。全体的に力不足を感じました」
野球はいつも思った通りにいくとは限らない。だからこそ、西谷監督はあらゆる状況を想定して準備を進める。プロで活躍する数多くのOBや水本さんらを野球人として育て、その中で甲子園で積み重ねた69勝は、負ける要因や想定外を排除して勝つ確率を上げてきた結果と言える。
<第1回、第2回からつづく>