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藤井聡太12歳と豊島将之24歳が出会って10年「タイトルをいずれ独占する」と予測した日も…名人戦「押される時間が長かった」藤井逆転の背景
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph by日本将棋連盟
posted2024/04/13 06:00
第82期名人戦に臨んでいる豊島将之九段と藤井聡太名人
藤井「豊島九段は最近、いろいろな戦型を指します。未知の局面になったとき、中途半端に知識に頼るのは良くないので、初心に帰って盤面に没頭します。勝ち負けを意識せず、極限まで考えられる瞬間が面白いです」。名人戦の記念扇子には《初心》と揮毫した。
豊島「将棋のスタイルを少しずつ変え、挑戦し続けたいと心がけています。居飛車党の私は23年度に振り飛車を何局か指しました。名人戦では終盤まで競り合えるような将棋を指したい。それには集中力が大事です」。同じく記念扇子には《一心不乱》と揮毫した。
豊島が「振り飛車」をほのめかしたが
そんな今年の名人戦七番勝負第1局は4月10、11日に東京都文京区「ホテル椿山荘東京」で行われた。名人戦が毎日新聞社と朝日新聞社の共催となった2008年の第66期以降、開幕局の対局場として定着している。
第1局では恒例の「振り駒」が行われ、藤井名人が先手番に決まった。両者の過去33局の戦型は、主に「角換わり」と「相掛かり」で二分されていて、直近では前者が多かった。
豊島九段は4手目にわずか1分で9筋の端歩を早めに突いた。新しいスタイルの「振り飛車」をほのめかしたが、すぐに居飛車を明らかにした。藤井に▲3四飛と横歩を取らせる「横歩取り」の戦型になった。
両者の過去の対戦で横歩取りは、2020年9月の将棋日本シリーズJTプロ公式戦での1局(豊島が後手)のみ。激しい攻め合いの末に豊島が勝った。名人戦はその一戦とは別の展開になった。
豊島は事前に研究してきたようで短時間で指し進め、△2七角と敵陣に打った。しかし、藤井の応手が意外だったのか、当然の一手の次の△4五角成に102分も長考した。
藤井も中段に角を打って▲5三角成で馬を作った。双方の飛車と馬が中段でにらみを利かし、一触即発の空気がみなぎった。ただ直後に馬と馬が交換され、序盤の駒組み手順に落ち着いた。豊島が力将棋に持ち込む意図は不発になった感じだ。その後、藤井は飛車を8筋に転じて「ひねり飛車」のような戦型となった。
藤井の懸命な粘りに対して、ノータイムでの香車が…
2日目の午後、豊島が△9五角と飛車取りに打って局面が動いた。働きが限定されて指しにくい手だが、藤井の攻め駒を抑える狙いがあり、角を4筋に転換して戦機をうかがった。少し苦しいと思った藤井は▲4六角と打って攻めにいった。以後は激しい攻め合いとなった。豊島が藤井の玉に襲いかかると、藤井は懸命に粘った。