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藤井聡太12歳と豊島将之24歳が出会って10年「タイトルをいずれ独占する」と予測した日も…名人戦「押される時間が長かった」藤井逆転の背景
posted2024/04/13 06:00
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph by
日本将棋連盟
今年の第82期名人戦七番勝負は、桜が咲き誇った時期に開幕した。初防衛を目指す藤井聡太名人(21=竜王・王位・叡王・王座・棋王・王将・棋聖を合わせて八冠)に対して、名人戦に4年ぶりに登場した豊島将之九段(33)が挑戦している。
両者のタイトル戦での勝負は過去に4回あり、王位戦2回、叡王戦、竜王戦でいずれも藤井が制した。12歳の藤井が豊島と初めて指した練習将棋、藤井が豊島に公式戦で6連敗から巻き返したきっかけ、名人戦の大舞台に臨む両者の思い、4月10、11日に行われた名人戦第1局の激闘などについて、田丸昇九段が解説する。【棋士の肩書は当時】
豊島は“現在の藤井1強”をすでに予測していた
2014年12月、藤井初段(当時12歳)は師匠の杉本昌隆七段の研究会で、豊島七段(当時24歳)と練習将棋を初めて指す機会があった。順当に勝った豊島は「小学6年でこれだけ指せたら、自分のときと比べてかなり強い」と高く評価した。2017年5月、デビュー戦から負けなしで16連勝していた藤井四段は、あるイベントの公開対局で豊島八段と対戦して敗れた。藤井は「A級棋士の力というものを感じました」と語り、実力差を率直に認めた。
2017年8月、豊島八段と藤井四段は棋王戦で対戦し、公式戦での初対局は豊島が勝った。その後、藤井は2020年10月まで豊島に6連敗した。藤井が同じ棋士にこれほど負けたのは異例のことで、5局目の時点では二冠(王位・棋聖)を獲得していた。藤井は「実力が足りないから」と語ったが、少年時代に抱いた豊島への畏敬の念によるものという声もあった。
そんな時期に豊島は、「藤井さんの将棋には、自分には指せないという手が多いんです。特別な才能を持っています。実力をさらに伸ばしていけば、タイトルをいずれ独占するでしょう。自分はそのときに何とか戦えるように頑張りたい」と語った。現在の藤井1強の状況をすでに予測していたのだ。
王位戦、叡王戦、竜王戦と戦っていく中で
2021年7月、藤井王位に豊島竜王が挑戦した王位戦七番勝負第2局が北海道・旭川で行われた。藤井は第1局で敗れ、豊島との対戦成績は1勝7敗。初防衛に向けて苦しい状況で、形勢も不利な局面がずっと続いた。しかし、終盤の土壇場で豊島の疑問手に乗じ、驚異の終盤力を発揮して逆転勝ちを果たした。勝ちを逃した豊島は終局後、呆然とした様子だったという。