濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
創業者が電撃解任…女子プロレス最大手スターダムに何が起きているのか? 岡田新社長が語る騒動の舞台裏「これもプロレス、と受け止められるのは嫌」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2024/02/16 17:00
2月4日、旗揚げ13周年の記念大会を終えたスターダム。新社長に就任した岡田太郎氏にインタビューを行った
「『これもプロレス』と受け止められるのは嫌です」
また小川氏は「強引なカードを強要されたり、社内でハラスメントがあった」と東京スポーツの取材に語っている。これに関しても、岡田社長に会社としてのスタンスを聞いた。
「仮に納得いかないことがあったからといって、選手を連れて新団体を設立してもいいということにはならないでしょう。当時の小川さんにはスターダムのエグゼクティブ・プロデューサーとして報酬をお支払いしている。団体内でネガティブなことが起きたのなら、それを解消して健全化するために働くべき責任ある立場ですし、それができた方です。新団体設立に動くのであれば、百歩譲っても退団した後。在任期間中に動くのは会社にとって背信行為です」
プロレス界ではよくあることでも、それが会社や世間一般の常識とは限らない。岡田社長は「今回の話に限らないことですが」と前置きして思いを明かした。
「ゴタゴタやメチャクチャな騒動があった時に“これもプロレスだよね”、“こういうのもプロレスの面白さのうち”といった受け止め方をされるのは正直、嫌ですね。世間で通用しないことを“プロレスはそういうもの”で済ませてしまったら、そこから広がっていかない。コンプライアンスを遵守した上で、リングでだけは非日常を展開するという形でないと。そうした面での感覚を、業界全体でアップデートしていく必要を感じます」
マッチメイクなどプロデュースの今後は
小川氏が挙げた「カードの強要」や「ハラスメント」は、おそらく岡田社長が就任する前の、前社長の体制でのことだ。11月の茨城・牛久大会の開始時刻が、団体のミスにより前日になって大幅変更。返金などの対応に関する発表も遅れ、そこから団体に対する選手、ファンの不満が爆発することになった。牛久大会の件について選手から質問されたスタッフが、無礼と言うしかない対応をしたと主張する選手もいる。
こうした出来事がきっかけで、スターダムの社長が岡田氏に交代となった。岡田新社長はブシロードで女性声優ユニット「ミルキィホームズ」のマネジメント、プロデュースを担当。女性タレントとの向き合い方やライブエンターテインメント制作というスペシャリティは女子プロレスとも親和性が高い。
ブシロードは“牛久騒動”以後、スタッフおよび希望する選手へのヒアリングも実施している。
「その結果、会社のルールに則って注意をはじめ様々な段階での処分がありました。異動になったスタッフもいます。スターダムは、今まさに変わろうとしている最中です。ですが、新体制になっても小川さんの“スターダムを離れる”という意思は変わりませんでした。振り上げた拳の下ろしどころが見つけられなかったということなのか……」
小川氏の解任を受け、マッチメイクなどプロデューサー業務は岡田社長が担当することになった。そのスタートは2月11日の静岡大会。“岡田プロデューサー”は、業界の生き字引きであり豊富な知見と経験を持つ小川氏の後任として手腕が問われることになる。“岡田流マッチメイク”は、果たしてどのようなものになるのか。
「言ってしまうと“岡田流マッチメイク”というものはないですし、なくていいと思っています。大事なのは私が個性を発揮するのではなくスターダムという名前を守り、その歴史を守り、日本で独自に発展した女子プロレスという文化と選手の地位を高めていくこと。私が目指すべきはプロデューサー業を長く続けることではなく、後任を作っていくことです。それが選手出身であれ内部スタッフであれ外部からの招聘であれ“いつでも、いくらでも代わりがいる”という状況でいい」