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「机がマジで壊れるんじゃないかって…」“怒る名将”ポステコグルーのブチ切れ伝説…“偽SB”松原健が語る「それでもボスが信頼された理由」
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byAFLO SPORT
posted2024/02/12 11:03
2019年、松原健とJ1優勝の喜びを分かち合うアンジェ・ポステコグルー。アタッキングフットボールの当事者たちが語る「ボス」の素顔とは
「自分の家族が困っているときに、助けないヤツはいない。チームの誰かがミスをしてしまったら、ミスをしそうになったら助けにいく。ゴールも失点もミスも、すべてはファミリーが関わったこと」
よく聞かされた言葉だ。
ファミリー全員で奏でるから目指すアタッキングフットボールが成立する。攻撃はGKから始まり、守備はFWから始まる。これもボスは口酸っぱく選手に伝えてきた。
称賛も批判も、すべて全員に向けられる。ゆえにファミリーの結束も強くなる。
「試合に勝っても、自分たちのアタッキングフットボールがやれていなかったら不機嫌でしたね。怒りすぎて、ボスの机がマジで壊れるんじゃないかってくらいバンバン叩いたこともありました」
「掟破りのミドルシュート」を連発したワケ
チームには戦術上、いくつかファミリーの掟があった。
一つは、ウイングがボールを持てばワンタッチで速いクロスを相手GKとDFの間に入れ、逆サイドのウイングは絞ってシュートを狙うというもの。これを約束通りやらない選手がいたら、ボスから怒りの湯気が立った。ほかには「ミドルシュートは打つな」もあった。単純に決まる確率が低いという理由からだ。
ボスの顔色をうかがうなら、普通はやらない。
それなのに松原は迷いなく打ち込んでいく。8月15日、ホームの名古屋グランパス戦においてはミドルシュートを豪快に叩き込んでいる。
「決まりごととしては絶対にダメ。ただ入ればOKという結果論的なところもあるかなとは思います。(シュートを)外してミーティングで怒られても、次、頑張ればいいかっていう感じになるんですよね、不思議と(笑)。それもボスの魅力じゃないですかね」
ミーティングの席で怒られたとしても、それで終わり。自分のエゴではなく、ファミリーを助けたい思いがシュートを選択させたとなれば、掟を破ったとも言えない。アタッキングフットボールとしての軸がブレていなければ、逆鱗に触れないことも彼はよく分かっていた。
2018年シーズンは残留争いに巻き込まれつつも、12位で終えた。苦しくとも信念を曲げなかった1年目があったからこそ花が開くことになる。
松原自身、2019年シーズン前半は出場機会が限られた。ケガに加えて広瀬陸斗、和田拓也らの加入で競争も激化した。どのポジションも層が厚くなり、この戦術にフィットする選手が集められた。ここまで積み上げてきた“1期生”のプライドに懸けても、負けるわけにはいかなかった。