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「クビにしてもらっていい」「俺と社長でカラオケに」ポステコグルーと築いた特別な関係性…黒澤良二マリノス前社長に聞く“プレミア名将の素顔”
posted2024/02/12 11:05
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
Getty Images/Kiichi Matsumoto
ポステコグルーを快く送り出した理由
もしこの人がトップでなかったら、プレミアで注目される指揮官になるまでにもっと時間が掛かっていたかもしれない。いや、それ以前に、「ボス」ことアンジェ・ポステコグルーがこの舞台にまでたどりついていなかった可能性だってある。
「スパーズの監督就任が決まった際に嬉しくなって、メールで“Congratulations!”と送ったら、アンジェからも返信が来たんですよ。もちろんセルティックでの功績が認められたからなんですけど、その礎を築いたのが横浜F・マリノスという誇りが我々のなかにはあります」
黒澤良二は横浜F・マリノスの社長としてポステコグルー体制を後押しして、2019年に15年ぶりとなるリーグ優勝を達成。アタッキングフットボールをクラブ全体のスローガンとして浸透させた。さらに同路線を継続すべくケヴィン・マスカットを招聘、優勝を遂げた2022年シーズンを最後に退任している。
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社長時代に大きな決断を迫られたのが、2021年の6月だった。ポステコグルーに対してスコットランドの名門セルティックからオファーが届き、双方合意のうえでの退任がアナウンスされた。シーズン途中に現場トップが引き抜かれるとなれば、チームに混乱が起こってもおかしくなく、契約を盾に突っぱねることもできた。だが彼はそうしなかった。
「あの中村俊輔選手がプレーした有名なクラブから正式なオファーを受けて、アンジェ自身もスコットランドに行くことを熱望していました。彼の人生を考えたら止める理由はないと思ったし、セルティックからJクラブの監督に声が掛かっただけでも凄いこと。F・マリノスの価値をさらに引き上げることにつながるなと感じました。実際にそのようになったのではないでしょうか」
横浜を離れる際、ボスに感謝を伝え、ボスからも感謝を伝えられた。どちらからともなく「お互いに良い仕事をした」と声を掛け合い、がっちりと握手を交わした。