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“妥協しない男”ポステコグルーの問いに徹夜で答えを…松永成立が証言する“横浜F・マリノスのGK革命”「アンジェはリスクなんて言葉を使わない」
posted2024/02/12 11:04
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
Etsuo Hara/Getty Images
松永成立が語る第一印象「大変そうな監督が来たな…」
松永成立が55歳のころ、3歳年下のオーストラリア人指揮官はやってきた。
日産自動車サッカー部の黄金期を支え、日本代表でも活躍した横浜F・マリノスのレジェンドは、GKコーチとしてもその手腕を発揮していた。2007年から古巣に戻って指導にあたり、独自で編み出すトレーニングメニューの「質」、居残りまでとことん付き合う「量」ともに一切、妥協はしない。情熱的な指導によって育て上げた榎本哲也、飯倉大樹らF・マリノスのGKは、1試合(90分換算)の平均失点数を表す「防御率」において常にJリーグでトップクラスの数字を叩き出してきた。10年以上実績を積み上げてきたベテランコーチにとって、アンジェ・ポステコグルーとの出会いがまさかこんなに大きなものになるとは思いもしなかった。
「最初は、何か大変そうな監督が来たなって。GKコーチとしてある程度確立してきたものもあったから、乱されたくはなかった。口数はそんなに多くない人。でも知らず知らずのうちに自分の質を上げてくれたし、うまく(考えが)整理されたというか、乗せられた感じがありましたね」
ベテランコーチはそう言って、口もとに笑みを浮かべた。
ボスというニックネームが、ピタリと合うと思えた。
「最初に会って次の日から練習が始まるので、GKとフィールドプレーヤーが融合するメニューではどういったものをやるのか聞きにいったら“明日になれば分かる”の一言だけ。それからずっとそんな感じで、あんまり余計な話はしない。トレーニングメニューをヘッドコーチが考えて、アンジェはそれを確認してOKを出す。そして実際のトレーニングも、ヘッドコーチに陣頭指揮を執らせて“大将”として全体的に見ていく。日産時代の加茂(周)さんみたいなタイプだなって思いましたね」