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寺地拳四朗がアザだらけに…なぜここまで苦しんだ? セコンドが明かすカニサレス戦“薄氷の防衛”のウラ側「最後の2ラウンドは賭けだった」
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2024/01/25 17:02
挑戦者のカルロス・カニサレスを攻める王者・寺地拳四朗。ダウンの応酬となった激闘は、僅差の判定で寺地に軍配が上がった
「カニサレスは緩急の使い分けが想像以上にうまかった。こちらが強気にいくのか、脚を使うかで迷う部分があったし、インターバルで指示を出しても、ラウンドの途中で変わってきてしまうこともあった」
一瞬にして攻守が入れ替わり、めまぐるしく戦況は変わった。戦前のイメージから寺地が苦戦している印象が強いものの、カニサレスもインターバルで椅子に座ると、その表情はかなり苦しそうだ。7回には寺地の左ボディで一瞬動きが落ちる。8回終了時の公開採点は、75-75が1人で、残る2人は76-74で寺地のリードとした。
残り2ラウンド、脚を使う「賭け」に出た寺地拳四朗
甲乙つけがたい中盤の攻防で、リードを奪えた寺地だったが、「いける」という感触を得ることはできずにいたという。
「もっと落ちてくると思ったのに落ちてくれない。(打っても打っても)打ち返してくる」
「飛ばしすぎ」にも見えるアップテンポなスタイルでプレッシャーをかけ続けるのが寺地のボクシングだ。これにより相手は体にも心にもダメージを負い、後半に入ると寺地のテンポについていけなくなる。寺地は戦前、「パンチを上下に散らして、相手のメンタルを削ってギブアップさせたい」と涼しい顔で話していた。「8、9ラウンドくらいにはそうさせたい」とKO予告もしていた。
ところがベネズエラからの刺客は歯を食いしばってついてきた。いや、ついてくるだけでなく、劣勢の採点が判明した直後の9回はネジを巻き直し、再びフックを強振して寺地に襲いかかった。世界王者返り咲きにかける執念がリングの外にもひしひしと伝わってきた。
このままでは危ない。加藤トレーナーはここで大きな決断を下す。
「9、10ラウンドを獲られた、少なくとも10は確実に獲られた。10の距離感が中途半端だったので、11、12は脚を使おう、触らせるな、と。10が終わってポイントはイーブンになったと思ったので、11、12は獲らないといけない。そう考えると賭けではありました」
寺地本人も「打ち合うより脚を使ったほうがポイントを獲れるかな」と考え、ラスト2ラウンドは徹底して脚を使った。悪くいえば逃げのボクシング。このスタイルでポイントが確実に取れる保証はなく、だからこそ「賭け」だった。結果的に11回はジャッジ3人、12回は2人が寺地を支持。こうして寺地は薄氷の勝利をたぐり寄せたのである。