ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
寺地拳四朗がアザだらけに…なぜここまで苦しんだ? セコンドが明かすカニサレス戦“薄氷の防衛”のウラ側「最後の2ラウンドは賭けだった」
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2024/01/25 17:02
挑戦者のカルロス・カニサレスを攻める王者・寺地拳四朗。ダウンの応酬となった激闘は、僅差の判定で寺地に軍配が上がった
やや後手に回った寺地は2回に右の相打ちでダウンを奪う。会場は「やはり寺地がKOで勝つ」というムードに包まれた。ただ、当の本人は「何が当たったか分からなかった」と振り返ったから、この時点で既に余裕はなかったのかもしれない。寺地はフィニッシュを狙ったものの、明らかに効いていたカニサレスは上体の柔らかさを使って巧みにサバイブし、このラウンドを乗り切った。
まさかのダウン…加藤トレーナーも苦悩する展開に
本来なら寺地が仕留めていてもおかしくないシーンだった。脳裏をかすめる嫌な予感は3回に早くも的中する。生き返ったカニサレスは再び力強いパンチを打ち込んで寺地を下がらせていく。ラウンド後半、寺地がロープを背負った瞬間だった。互いの右が交錯すると、カニサレスのパンチがカウンターになって炸裂、寺地がキャンバスに沈んだ。まさかの展開に、客席から「拳四朗、がんばれ!」と悲痛な声援が飛んだ。
ここからどう立て直すのか。寺地は絶対の信頼を寄せる加藤健太トレーナーの指示を常に忠実に守って戦う。ダウンした直後のラウンドは、ダメージの回復を第一に考え、無理せずしのぐという考えがある。しかし4回、寺地は3回までと同じようなアップテンポで攻めた。加藤トレーナーは次のように振り返った。
「逃げの一手にはしたくなかった。効かされたあとは脚を使えという考えも分かるけど、それだと向こうにプレッシャーがかからない。相手もちょっと落ちていた。このあたりの押し引きがセコンドとしても難しかった……」
この試合はWBCの公開採点が採用されていた。これが最終的に寺地にとっては吉と出る。4回を終わって2人がドロー、1人が39-36でカニサレスのリードとした。
互いにダウンを取り合って迎えた中盤も激しい競り合いが続く。寺地は強気の姿勢を崩さず、得意のジャブ、ボディ打ちで迫っていく。カニサレスはある程度被弾しながらも、寺地の右を徹底的に防ぐ。そしてラウンド後半になると一気にギアを上げて攻勢に出て、寺地を下がらせた。戦況を見守る加藤トレーナーも指示の出し方に苦しんだ。