第100回箱根駅伝(2024)BACK NUMBER
原晋監督が育んだ青山学院大学らしさとは? 監督の言葉とは裏腹に、選手自身が貫き通した「攻めの姿勢」〈第100回箱根駅伝〉
posted2024/01/09 10:00
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph by
Naoya Sanuki
「ダイエットしておくべきだったね」
青山学院大学の原晋監督は、試合後にそう言っておどけてみせた。
箱根駅伝の総合優勝は2年ぶり。大観衆が見守る大手町のフィニッシュエリアで、選手たちに胴上げされて3度宙を舞った。「駒澤大学一強」の下馬評を覆す勝利に、喜びもひとしおだったようだ。
「まったく予期せぬ胴上げだったのでね。準備ができていませんでした。みなさんもわれわれが勝つなんて思っていなかったでしょ。私もそうでしたから」
実際に、青学大は追い込まれていた。12月初旬に出走メンバー10人のうち5人がインフルエンザにかかる非常事態。万全の状態で臨んでも勝てるかどうかわからない相手に、この状況では戦えない。本大会を間近に控えた12月28日、全体ミーティングを開き、監督は選手たちにこんな言葉を伝えたという。
「本音が8割、残り2割は肩の力を抜かせて奮起を促す。そういった意味で、『準優勝で良いよ』と伝えました。その後、志貴(勇斗・4年)主将を中心に議論があって、それでも俺たちは総合優勝したいんだと。ですから今回の総合優勝は、学生たちが諦めなかった結果なんです」
監督はつねづね「立つ自立から、自ら律する自律。それができる学生を育てたい」と語っているが、今回の学生たちの行動はまさに追い求めていた理想の姿であったのだろう。
選手だけのミーティングで何を話し合ったのか
選手だけのミーティングは1時間以上に及び、なぜ勝ちたいのか、どうすれば勝てるのか、そんなことを選手たちは話し合った。
当時の様子について、主将の志貴がこう語る。
「箱根駅伝のメンバーから外れた4年生を中心に、一人ひとり思いを語ってもらいました。僕らは1年生の時からこの第100回大会で総合優勝したいという思いがあって、選ばれたメンバーにはその思いを背負って走ってもらいたかった。で、走らないメンバーもそこに意識を向けて、全員で頑張るべきだと。あの話し合いを通じてより一体感が生まれたと思います」
エントリーメンバーから漏れた主将が、涙まじりに思いを語る。そして、全力でサポートすると選手たちに誓ったのだ。エントリーされていたメンバーが奮い立たないはずがなかった。
選手自らが考え、厳しく己を律する姿勢は、レースにおいても徹底されていた。
1区でトップに立った駒大に35秒差のリードを許すが、2区の黒田朝日(2年)が会心の走りで盛り返す。駒大の鈴木芽吹(4年)を上回る、1時間6分7秒の走りで区間賞を獲得。これは同区歴代4位に相当する好タイムだった。