第100回箱根駅伝(2024)BACK NUMBER
原晋監督が育んだ青山学院大学らしさとは? 監督の言葉とは裏腹に、選手自身が貫き通した「攻めの姿勢」〈第100回箱根駅伝〉
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph byNaoya Sanuki
posted2024/01/09 10:00
3区歴代2位となる59分47秒の激走を見せた青学大・太田蒼生(3年)と駒大・佐藤圭汰(2年)
3区、ついに駒大の記録が途絶える
黒田はレース中に時計を付けておらず、監督からの指示もほとんどなかったと話す。
「ほんとにたすきを受けた時点で自分がどの順位にいるのかっていうのがわかってなくて、ただ前にいる選手をどんどん抜かしていこうという意識でした。けっこう集団でいたので、運営管理車から監督の声が聞こえてきたのも終盤だけでしたね」
2区で22秒差に詰め寄ると、その勢いを3区の太田蒼生(3年)が加速させる。10000mで現役日本人学生最速タイムを持つ駒大の佐藤圭汰(2年)に対し、一歩も引かない攻めの走りで追走。最後はライバルを突き放し、同区歴代2位となる59分47秒の激走で逆転を果たした。
ここまで駒大は学生三大駅伝で23区間連続トップを維持してきたが、ついにその記録も途絶えた。篠原倖太朗(3年)、鈴木、佐藤という絶対的な信頼を置く3本柱を1区から並べたが、うち2区間で青学大に区間賞を奪われたことになる。
駒大の藤田敦史監督は、こう嘆かざるを得なかった。
「やっぱり3区ですね。われわれが自信を持って配置した圭汰が、太田君に置いて行かれた。あのシーンをみんな見てしまったので、その部分での動揺があったと思います」
その後も、4区の佐藤一世(4年)が区間賞、5区の若林宏樹(3年)も区間2位で続き、青学大は2位駒大以下を大きく引き離した。
あまりにも青学大が速すぎたため、復路一斉スタートとなった大学は16校にも及んだ。この時点で、総合優勝争いは青学大と2分38秒差の2位につけた駒大の2校に絞られたといってよかった。
駒大「6区で少しでも差が詰まれば…」
翌日の復路、駒大はスタートの6区で少しでも差を縮めたいところだったが、ここでも誤算があったと藤田監督は話す。
「帰山(侑大・2年)は気負いがあったのかもしれません。6区で少しでも差が詰まれば、追撃態勢を整えることができたと思うんですが、それができずに精神的なダメージを逆に受けてしまった。あとは今季、ずっと先頭を走ってきたので、後手に回ったときに動揺したのは否めないと思います」
駒大は6区で区間二桁順位(12位)に沈み、区間2位で走り抜けた青学大にその差を4分17秒まで広げられてしまう。原監督が「3分差がつけば先頭優位がより発揮される」と話したように、ここからは青学大の独擅場だった。
駅伝では先頭で走ることが大きなアドバンテージとなる。前回も、前を行く駒大が2位中央大学との差をじわりじわりと広げたが、今回も両校の差は広がるばかり。駒大の7区に起用された安原太陽(4年)は学生三大駅伝を9回走っている実力者だが、その彼をしても「焦りもあって前半突っ込んでしまった」と本来の力を発揮するまでには至らなかった。