ぼくらのプロレス(再)入門BACK NUMBER
「このままだと、大きな事故が起こりかねない」飯伏幸太が“危険なプロレス”に警鐘を鳴らす理由…丸藤正道との“夢のカード”で何を見せるのか?
text by
堀江ガンツGantz Horie
photograph byGantz Horie
posted2023/12/31 17:01
2024年1月2日「NOAH “THE NEW YEAR” 2024」にて丸藤正道との対戦が決まった飯伏幸太
「アスリート・プロレスとは違う、新しいものを」
丸藤との一戦は14年前の“忘れ物”を取りにいくという思いがある一方で、「今だからこそやる意味がある」と飯伏は語る。
「20代同士の丸藤vs飯伏っていうのも、やっていたら面白い試合になっていただろうなと思います。ただ、どんな試合になったか、なんとなく想像がつくんですよ。お互いの身体能力と発想を駆使して、アクロバティックな技や動きで驚かせ合うような試合。会場は盛り上がっただろうと思いますけど、数年経てば『そういう試合もあったね』で終わっていた気もするんです。
動き自体に関しては、もちろん20代、30代の方が動けたし、ケガもなかったんですけど、お互いにキャリアを重ねたことで、以前とはまったく違う化学反応が起こると思う。20代の頃よりも絶対に印象に残る試合になるという確信が僕の中にはありますね」
かつて飯伏が目指していたのは、アスリートとしての運動能力を駆使して攻撃を仕掛け、相手のえぐい技も受けてみせる『極限まで身体を張ったプロレス』。飯伏はそれを“アスリート・プロレス”と呼ぶが、この十数年の間に、飯伏は自分の求めるプロレスが変わってきたという。
「アスリート・プロレスっていうのは、僕の中では2012年のケニー・オメガ戦(8.18 DDT 日本武道館)で終わっているんです。あそこが到達点だったと思うので。それ以降もアスリート的なトレーニングは続けていますけれど、それはあくまで自分のプロレスを表現するためのベースとなるツールです。今はそれを使ってよりアクロバティックなことをしたり、危ないことをしようとはまったく考えてない。派手なことをやるのではなく、もっと頭を使ったプロレスをやっています。
それは丸藤さんも同じだと思うんですよ。丸藤さんも昔はアクロバティックな技をバンバン出していたけれど、いまは全然スタイルが違う。それを“劣化”という人も中にはいますけど、試合のクオリティはむしろ上がっているので、僕は進化だと思っています。それは自分自身がそうだから。派手な技や視覚的なものに頼らずとも、観客の心に残る、心を動かすようなプロレスができるようになってきているので。丸藤さんとだったら、アスリート・プロレスとは違う、新しいものができるんじゃないかっていう期待がすごくありますね」
飯伏が“危険なプロレス”に警鐘を鳴らす理由
飯伏が「新しいプロレス」を目指すようになった背景には、自分自身の年齢や身体的なコンディションの変化だけでなく、現在のプロレスに対する危機感が存在する。
「今、世界中で“危険なプロレス”が流行ってるじゃないですか。女子も含めて危険な技がどんどん増えていって、よりアクロバティックでよりリスキーな技になりがちなんで、プロレス界全体を考えてそっち側に行ってほしくないって僕は思ってるんです。このままいくと、ただ過激になって大きな事故が起こりかねない。
そういうプロレスが主流になってしまったのは、僕とケニーの“せいでもある”と思っているんですよ。2012年にケニーとやった時は、自分自身『後悔したくない』という思いもあったので、その時点でできる極限なものをやったし、あの時にやっておいてよかったという思いもあるんですけど。みんながそっちを目指すような流れを作ってしまったのだとしたら、僕の責任としてその流れをまた変えたいですね。ケニーとやった時より、今の自分のほうがレベルは絶対に上がっているはずなので、丸藤さんとプロレス界全体の流れがこっちに傾くような試合をしたい。
具体的にいえば、たとえば危険な技を使わずにいかに盛り上げることができるかということもひとつ。あとは、試合時間がとりあえず長ければいいみたいな風潮が最近のプロレス界にはあるので、それも変えていきたい。ビッグマッチだからって30分やらなきゃいけないとか、そういう考えは僕にはないし、もしかしたらあっという間に試合が終わるかもしれないし、一瞬の技で決まるかもしれない。今のプロレス界にある変な常識を覆して、プロレスを新しい段階、次のステージに持っていきたい。丸藤さんとの試合で、新しいプロレスの“柱”を作りたいと思っています」