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内定辞退しプロ挑戦も不合格…「そして私は就職浪人の大学5年生になった」元会社員の棋士・小山怜央が明かす挫折
text by
小山怜央Reo Koyama
photograph byJIJI PRESS
posted2023/12/24 06:04
今年4月にプロ棋士となった小山怜央。本人が大学時代、人生2度目の奨励会入りの挑戦を振り返る
そこでまず連絡したのが、北島忠雄先生だ。中学生のとき、奨励会試験を受けるときも師匠を引き受けてくださったが、今回も連絡すると、即答で「がんばって」と師匠になることを快諾してくださった。
次に連絡したのが、内定をくださっていた会社だ。将棋のプロを目指し挑戦したいので内定を辞退させてください。そう伝えると、思いのほか、応援するといった感じで快く承諾してもらえた。
卒業を諦め、大学休学
後は、合格するように準備をするだけだった。私は4年での大学卒業を諦め、5年からの半年間は休学申請をした。試験の8月はあっという間にやってきた。
ふたたびやってきた暑い夏の東京将棋会館。館内はもちろん冷房が利いているが、対局場には別の熱がこもっていた。
全国各地から集まった将棋の才能が、一つでも多くの勝ちを重ねて、四段=プロを目指す奨励会。その二段と初段が対局をする例会に参加する形で私の三段リーグ編入試験は始まった。なお、私との対局成績は奨励会員の成績にも反映されるため、彼らも全力で向かってくる。
奨励会の人は、将棋の「作り」が違う
幹事の先生が手合いをつけてくれて第一局は二段の人との対戦となった。持ち時間は90分で、これが切れたら1分以内に指すのが決まりだ。ちなみに「アマ名人戦」は、持ち時間が50分で切れたら30秒。これだけでもかなり対局環境は違う。そんな環境で日々、将棋に打ち込む奨励会の人は、序盤からしっかりと時間を使ってきて、将棋の「作り」が違うなと感じた。1局目は、そんなプロを目指す将棋に力負けした。2局目は、初段の人との対局だった。この場合、ちょっと独自のルールがある。
受験者は二段の扱いなので、初段の人に対しては格上となる。そこで振り駒をして、通常、上位者が先手番となる「歩」が出たら後手番、「と金」が出たら上位者は香落ちでの対局となるのだ。この場合、必ず角側の香を落とすので、必然的に振り飛車を指すことになる。
2日目の1敗は、正直辛かった
日々、奨励会で対局をしている人にとっては当たり前のことなのだが、奨励会を経ておらず、また振り飛車を指すことがない私にとっては難しいルールだった。私は、この試験で2度、初段の人と対局し、一度、香落ちでの振り飛車を指した。苦戦が予想されたが、不思議なことにこの対局は勝った。