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「井上(尚弥)さんはスパーリングというより試合」パートナーを務めた男を包んだ“強烈な緊張感”…堤駿斗は「プロ初のKO勝利」を目指す
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2023/12/17 06:00
12月31日のプロ4戦目で「プロ初のKO勝利」を狙う“ホープ”堤駿斗
「KOはプロボクシングの華じゃないですか」
「ショックでしたけど、プロ入りに迷いはありませんでした。オリンピックは東京の1回と決めていたし、小さいころからの夢はプロだったので、そこはブレなかったです」
デビューから約1年でタイトルを獲得し、世界ランキング入りもはたした。それ自体は悪くないと思う。一方で、どうしても受け入れられない事実に苦しんでもいる。
「いまだにKO勝ちがないというのは、自分の中ですごくモヤモヤしています。ここまで勝ててうれしい反面、素直に喜べないなと」
堤のボクシングは多彩な左リードとフットワークを使って距離を操るスマートなスタイルだ。決して非力ではないし、KOが生まれるのは時間の問題だろう。無理に倒そうとするのは逆に良くないのではないか。周囲はそう考えるのだが、未来の世界チャンピオン候補はメディアの前でも「倒す」という言葉を繰り返し口にするのだ。
「KOはプロボクシングの華じゃないですか。仮に判定で勝てるのであれば、もっと強くなってKOで勝てるようにならないといけない。そこは譲れない。そう自分にプレッシャーをかけています」
「井上(尚弥)さんは打ちのめしにくるんですよ」
堤は今、どうやったら相手をKOできるのかを常に考え、練習に反映させている。何より大事だと感じているのはスパーリングだ。対人練習でこそ倒す感覚やハートが養えるのではないか。井上とスパーリングをした記憶がそう語りかけるのだ。
井上が'19年5月、IBFバンタム級王者のエマヌエル・ロドリゲスと対戦する前、大学生だった堤はパートナーに指名され、井上と4、5回にわたり拳を交えた。
「強烈でした。自分にしてみればスパーリングというより試合です。毎回4ラウンド、あんな緊張感を味わったことはありません。井上さんは徹底的に倒しにくる、打ちのめしにくるんですよ。普段からそういう心構えでスパーをしていると感じました。試合であれだけ倒せるのはそれも理由かなと思うんです」
プロ4戦目は大みそかの東京・大田区総合体育館、相手はWBA15位にランクされているルイス・モンシオン・ベンチャーラ(ドミニカ共和国)に決まった。自身初となる世界ランカー対決のテーマはもちろん「プロ初のKO勝利」だ。
堤駿斗Hayato Tsutsumi
1999年7月12日、千葉県生まれ。習志野高校時代、高校6冠を達成。'22年プロデビュー、今年5月に行われた3戦目でOPBF東洋太平洋フェザー級王者に。3戦3勝(0KO)。171cm。