月刊スポーツ新聞時評BACK NUMBER
阪神タイガース日本一→連載終了のまさか…名物コラムを“辞めた”スポーツ紙著者の複雑な思いとは?「強い阪神を見られる。それなのに…」
text by
プチ鹿島Petit Kashima
photograph byHideki Sugiyama
posted2023/12/01 11:01
悲願の日本一に輝いた阪神タイガース。しかしその裏で、名物コラムが最終回を迎えていた
《猛虎が弱体球団なら、それも一部虎党のガス抜きとして成立し得るだろうけど…この連載が、今後の猛虎に相応しいとは、思えない。》
これまで、時には弱い阪神を愚痴りつつ、ファンの共感とガス抜きとして歩んできたこのコラムも、阪神が黄金時代を迎えそうだから役目は終わったという思いなのか?
連載終了後、東京新聞が『デイリースポーツ名物コラムが「阪神日本一」で終了…筆者・松下雄一郎さんが語る2つの理由とは』と報じていた(11月14日)。
ADVERTISEMENT
松下雄一郎さん(53)は小学6年生の時に「将来の夢」に「阪神の応援をしてメシを食う」と書いたという。夢を実現してデイリースポーツに中途入社。2003年から阪神担当になり、2011年からコラムを開始。年間20~30試合はチケット代を払ってスタンドから観戦し、原稿は阪神ファンが集まる店でファンの嘆き、叫びを聞きながら書いてきた。
複雑な思い「強い阪神を見られる。それなのに…」
《ただ、書く以上は完全にファンとして観戦できない。試合中は原稿を気にしなくてはならず、試合後の余韻に浸ることもできない。一方で、名物となったコラムは自分から言い出さない限り、終われない状況になっていた。別の担当で今以上に力を発揮できるとも思えず、潔く退社を決めた。》
なんと松下さん、普通の阪神ファンに戻るためデイリースポーツまで辞めてしまったのだ。コラムを終わらせた理由はもう一つある。デイリーのコラムでも書いていたが、阪神が強くなったからだ。
「自分の連載は常に敗者の目線、人生の敗者のためのものやったんです。自分自身もそうやけど、阪神ファンは、そんな自分を投影して応援するところがある。これから常勝軍団になる可能性があるチームにはふさわしくないんです」
今後の身の振り方は決めていないという。「これからは強い阪神を見られる。それなのに、『勝ち続けたらどうしよう』と一抹の不安もある。どういう気持ちで応援したらええのか分からない。複雑なファン心理ですわ」。この言葉には、長く阪神を見てきた人の思いが詰まっている。