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「日本財団とマッチングしたら面白いんじゃないか」中田英寿の広げる力「社会貢献はもっと格好良くていい」という発想「楽しいし幸せを感じる」
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/12/08 07:00
HEROs誕生の立役者、中田英寿氏と笹川順平氏
中田「そうですね。僕は、情報を集めるための仕組みをずっと考えていて、思い浮かんだのが『HEROs AWARD』を作ることでした。それにはパートナーとして協力してくれるところが必要であり、日本でいろいろな活動をしていて最も力もあるのが日本財団でした。一方で、日本財団はすごいことをやっているのにあまり活動を知られていないとも思い、マッチングしたらさらに面白いんじゃないかと考えました」
笹川「中田さんの提案は賛同に値するものでした。スポーツ選手は、知られる力はあるけれど活動は弱い。僕らは、活動は強いけれどそこまで知られていない。僕らとしても両者をつなげることによって活動が大きくなりやすいと考えたのです」
――お二人はもともと旧知の間柄だったのですか?
笹川「いいえ、この話を聞いたときからです。僕自身はサッカーが大好きでしたし年齢も近いので中田さんのことは知っていましたし、応援していました。その中田さんご自身から提案を受けた形です」
――中田さんと日本財団が組むメリットにはどのようなことがあるのでしょうか。
笹川「日本財団はいわば社会貢献のプロなのですが、実はジレンマがあります。社会のために良いことをやりますし、良いことをやっている人をサポートしますが、活動を知られるべきかどうかという議論が常に起こるんです。結論としては、知られるべきです。なぜなら災害や問題が起きている時には大きなパワーが必要だからです。でも僕らはやり方が下手でした」
――中田さんから提案を受けたのはいつ頃だったのですか?
笹川「東日本大震災を経て社会貢献に対する機運が高まっていた頃です。私自身、社会貢献活動はもっと知られるべきだという思いになっていた時に中田さんから話を受けました。そこで思ったのは、第三者である著名な方々が我々に関わってくれることによって活動を知ってもらえる。スポーツの力を活かすことによって、我々の活動もアスリートたちの活動もさらに大きくなっていく可能性がある。そのような判断で『HEROs AWARD』の設立を決めました」
中田「笹川さんがおっしゃる通り、日本では表立って『社会貢献をしています』と言いませんが、ヨーロッパにいた自分からするとそうじゃない。今でもチャリティーマッチがあればすぐに数万人が集まって世界に中継が行なわれます。これだけの力を使わない手はないし、社会貢献は苦しいものでも悲しいものでもない。楽しく、より多くの人が集まってやっていくための仕組み作りが必要なんです」
「社会貢献はもっと格好良くていいんだ」
笹川「中田さんの『社会貢献はもっと格好良くていいんだ』という発想はすごく共感できましたね」
中田「スポーツと組むことによって社会貢献が格好良くなるとすれば、それはすばらしいことです。格好良いと思ってもらえれば追随する人も出てくると思いますしね。一度やってみるとこういう活動はすごく心地良いし、自分の生き甲斐に変わってくると思います」
――授賞式はさまざまな競技のアスリートが一堂に会する場でもあります。
中田「だからこそメリットがあります。自分はオリンピックに2回出たのですが(※アトランタ五輪、シドニー五輪)、他の競技の選手と知り合う機会がなかったですし、引退後に現役の選手に会うこともありませんでした。なぜなら、そういう機会を作るようなフォーマットがなかったからです。違う競技の選手との会話から気づかされることがたくさんありますよ」
笹川「これまではサッカーと野球など、競技が違うとなかなか交わることはなかったですが、ここでは競技を越えて様々なスポーツの選手たちとも交流できるので、社会貢献についてだけではなく、食生活やトレーニング、プライベートの話もできます」
――華やかな場でもあり、すごいパワースポットですね。
笹川「それは中田さんの力ですね。僕らも学んだり議論したりしながらより良い形でやろうとするのですが、根底には中田英寿という男への信頼があります。この司令塔と一緒にやっていれば道を切り開いていけるという思いがあるから、僕らの力を違う形で提供していこうという気持ちになります」
――アワードの対象は自薦も他薦もあると聞いています。対象者は増えているのでしょうか?
笹川「横ばいです。理由はエントリーするには活動に一定以上のクオリティーが必要だからです。クオリティーと数も担保しなければなりません。そのために財団では横からの支援もしています。例えば、社会貢献について学びたいというアスリートの留学やオンライン講座受講の支援です。しっかりとした意志があり、なおかつ一定量の勉強をしていること、ポテンシャル、影響力も含めて審査をし、志を持ったトップアスリートを育てる取り組みをしています」
――「HEROs AWARD」には今後どのような期待を持っていますか?
中田「このアワードのもともとの目的は誰が何をやっているのかという情報を集めてくることです。誰が一番良いかを決めるためにやっているわけではありません。ですから、賞を出せば終わりではなく、災害などの時に人を動かしていくためのフォーマット作りを見据えてやっています」
笹川「そこが大事なんですよね。もちろん、表彰される方は喜んでくださるし、活動に対しての奨励金が出るのですが、日本財団は表彰されなかった人たちにもそれと同額ぐらいの支援をします。表彰された人だけが偉いわけではなくて、それをきっかけとして活動する人たちが立派なんです」
中田「もうひとつ大事なのは、人のつながりですよね。災害があった時に他の選手たちと被災地に行くことがあるのですが、感じるのは人とつながっていくことの重要性なんです。人間は人生においていろいろな活動をしますが、最終的には人とつながっていくところに幸せを求める人がほとんどだと思います。社会貢献というのは非常につながりやすいし、だから、本来は一番楽しいものであると思います」
「アスリートの言葉には力がありますが…」
――アスリートならではの視点や力がありますね。