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「藤井さんに弱点なんて…(苦笑)」藤井聡太に“敗れた男たち”の告白…棋士が3年前から感じていた“ある予感”「今後はさらに厳しくなる」

posted2023/10/17 17:01

 
「藤井さんに弱点なんて…(苦笑)」藤井聡太に“敗れた男たち”の告白…棋士が3年前から感じていた“ある予感”「今後はさらに厳しくなる」<Number Web> photograph by JIJI PRESS

史上初の八冠全冠制覇を成し遂げた藤井聡太

text by

大川慎太郎

大川慎太郎Shintaro Okawa

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JIJI PRESS

史上初の八冠全冠制覇を成し遂げた藤井聡太。どこまでいっても頂点ということはありません――。棋界が生んだ若き英雄は、二冠を奪取したのち、こう語っていた。2020年、史上最年少二冠を達成した2つのタイトル戦を、棋士たちの言葉で回想する。《全2回の後編/前編からつづく
これまで有料で公開していた記事を、特別に無料公開します!(初出:Number1018号 2021年1月7日発売/肩書などはすべて当時)

 酷暑の8月も藤井は止まらなかった。

 王位戦第3局では勝勢の終盤戦で木村の渾身の粘りに手を焼いて転びそうになったが、突然訪れたその好機を木村は捉えられなかった。終局後のフラッシュインタビュー。3連勝を決めた藤井は「負けにしているのかもしれない」と消え入りそうな声で漏らした。藤井が話す間は、カメラマンは撮影をしない。微かな声量がシャッター音でかき消されてしまうからだ。自信に満ちた指し手と、不安げな話しぶりとのギャップには少しばかり困惑させられる。

「意外な手という報道もありましたが、それは間違いです」

 8月19、20日に行われた王位戦第4局の対局場は、福岡市の大濠公園能楽堂。能舞台で藤井は現在の自分を目いっぱい表現して見せた。

 初日は難解な序・中盤が繰り広げられ、午後6時の封じ手時刻に。ところが藤井はこんこんと考え続ける。自分の持ち時間が残っていればどれだけ考えても問題ないのだが、周囲の目も気になるだろうし、普通は午後6時に封じることがほとんどだ。結局、藤井が決断したのは午後6時19分。20分近くオーバーしても、納得いくまで読みふけった。

 翌2日目。藤井の封じ手は△8七同飛成。大事な飛車で銀を食いちぎる強気な手で、メディアが騒ぐ格好の材料となった。だが木村は語る。

「意外な手という報道もありましたが、それは間違いです。飛車を切るか、逃げるかの二択の局面ですから」

 終局はまだ陽が高い午後4時59分。木村は痛恨のストレート負けを喫した。

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