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2020年「阪神“超当たり年”ドラフト」を振り返る…村上頌樹はなぜ5位? 石井大智が「育成」じゃないのは? その“納得のワケ”《18年ぶりリーグ優勝》
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byJIJI PRESS
posted2023/09/22 11:05
阪神にとって“超”当たり年だった2020年のドラフトで1位指名を受けた佐藤輝明。現在は中軸として活躍している
ドラフト候補No.1の和製大砲。オリックス、ソフトバンク、巨人との4球団1位指名競合の末、当時の矢野燿大監督が引き当てた。
強打者の次は…「サウスポーの即戦力」
2020年、阪神投手陣の左腕は、中継ぎに岩崎優(5勝・17ホールド)、先発組で岩貞祐太(7勝)、高橋遥人(5勝)を数えるにとどまり、ベテラン・能見篤史の移籍もあって、左腕の即戦力もドラフトの大きなポイントの一つになっていた。
この年のドラフト戦線。左腕は人材豊富と伝えられていた。
その論評通り、1位指名で早稲田大・早川隆久がヤクルト、西武、ロッテ、楽天の4球団で重複して、楽天が引き当てる。さらに、抽選で早川投手を外したロッテが繰り上げ1位で法政大の左腕・鈴木昭汰を指名していた。
2位でも左腕投手の指名が相次ぐ。阪神が伊藤将司(JR東日本)を指名するまでに、ヤクルト・山野太一(東北福祉大)、広島・森浦大輔(天理大)、西武・佐々木健(NTT東日本)と3人のサウスポーが指名されていた。
ところで、同じサウスポーといっても、タイプは異なる。ここがポイントだった。楽天1位の早川隆久投手だけは、スピード、変化球、コントロール、実戦力……と条件の揃った完成度の高い左腕だったが、そのあと伊藤将司投手の前までに指名されたサウスポー3人は、140キロ後半の快速球が評価された投手たち。
それに対して伊藤投手は、球速帯は130キロ後半でも、変化球のコントロールがよく、左打者の内角が突けるタイプ。最初から阪神の求めていた左腕は、他球団とはタイプが違っていた。
「間違いなく働けると思います。左バッターのインコースを攻められるサウスポーは、ウチの伊藤しかいませんから」
当時からJR東日本・堀井哲也監督(現・慶應義塾大監督)はそう言いきっていた。
伊藤将司以前に指名された快速左腕たちが、プロ入り後に一様に制球力で苦労する中、伊藤は21年10勝、22年9勝、今季もここまですでに10勝をマーク。安定した投手陣の一角に定着しつつある。
一転、3位指名の佐藤蓮投手(上武大)は、当時から150キロラインをクリアしていたパワーピッチャーだ。
ドラフト直後の公式戦では制球不安を露呈したこともあったが、佐藤投手以前に「パワーピッチャー」らしきタイプの投手が指名されていない事実を見ると、4位指名で捕手としては阪神の「最初のひとり」に指名された栄枝裕貴捕手(立命館大)とともに、ここまでは2020年の阪神ドラフト戦略は「満願」だったことが推測される。
「問題」は、このあとだ。