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「あそこまで逃げられると…」寺地拳四朗が“曲者”ブドラーを仕留めた「通せんぼ作戦」とは? TKO勝利の内幕を“名参謀”が深掘り解説
posted2023/09/20 17:00
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
WBA・WBC世界ライトフライ級王者の寺地拳四朗(BMB)が9月18日、東京・有明アリーナで元2階級制覇王者のWBC指名挑戦者、ヘッキー・ブドラー(南アフリカ)と防衛戦を行い、9回2分19秒TKO勝ちでベルトを守った。寺地はベテランの技巧派ファイター、ブドラーをいかにして攻略したのか。難しいゲームメイクを強いられた一戦を、寺地が絶対の信頼を置く参謀・加藤健太トレーナーと振り返る。
「軽く勝たないといけない試合」の難しさ
35歳のブドラーはキャリア39戦のベテランだ。2018年5月、日本で田口良一を下してライトフライ級2団体王者となり、マカオで行われた初防衛戦で京口紘人(ワタナベ)の軍門にくだった。試合巧者の印象こそあれ「怖い」と感じる要素はない。迎え撃つ寺地はいまや「アマプラ興行」の立派なメインイベンターだ。寺地の父、BMBジムの寺地永会長は戦前、「軽く勝たないといけない試合」と口にするほどだった。
一方で、加藤トレーナーはこの試合に向けて作り上げていく過程を「苦戦した」と表現する。その要因は、ここ2試合で対戦した京口、そしてアンソニー・オラスクアガ(米)が攻撃力を売りにしていた選手だったのに対し、ブドラーが戦略を駆使する曲者タイプだったからだ。
「京口選手やオラスクアガ選手は前に出てくるので、拳四朗のテンポが自然に上がっていく。来るから打つ。拳四朗がテンポを上げようとしなくても、自然にハイテンポになる。そういう選手は相性がいいんです。でもブドラーはそうじゃない。そこでどうテンポを上げていくかがテーマになりました」
テンポの速さは寺地の生命線だ。過去2戦はそれが功を奏し、攻撃型の選手とエキサイティングな試合を展開した。ただし、それがいつもはまるかと言えばそうでもない。相手の動きを利用し、長所を消すのがうまく、引き寄せてのカウンターも駆使するブドラーが相手だとこの戦い方にはリスクもあった。