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「どうやって攻めようかと…」那須川天心のプロ2戦目“判定勝ち”はどう評価されるべきか? 浮かび上がった課題と知られざる「対戦相手の質」
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2023/09/19 17:01
9月18日、プロボクシング転向2戦目でフルマークの判定勝ちを収めた那須川天心。KOを逃した要因について、攻め方に迷いがあったと明かした
「打たせて合わせるだけに…」KOを逃した要因とは
海外合宿はまだしも、デビュー2戦目の選手に海外のトップ選手がパートナーとして用意されることはめったにない。その歩みは五輪金メダリストとしてデビューした同じ帝拳ジムの村田諒太と同じだ。スタートから注目され、大きな期待を背負うホープは世界タイトルマッチを「まだか、まだか」と急かされる。そんな過大とも言える期待に応えるためには、試合だけでは足りないのだ。
那須川も周囲の声に応えようとした。倒せるパンチを打とうと「打ち抜く」ことを意識したのはその一つ。「スピードに意識がいくと(パンチが当たるときの)インパクトが弱くなる。ベースのところから意識して変えさせた」とは粟生隆寛トレーナー。こうして那須川は「完成ではないけど、自分のスタイルが分かってきた」というところまでボクシングを消化した。計量時に見せた素足の細さも、キックボクサーからボクサーへの肉体改造が進んでいることを感じさせた。
こうして迎えた2戦目が長くボクシングを見てきた人間の目から見て、上出来の内容だったのは間違いない。一方で、かねて宣言していたKOができなかったことをマイナスにとらえる見方もあるだろう。試合後、KOを「逃した」要因を問われ、那須川は次のように語った。
「1ラウンドにカウンターでダウンを取って、相手が何もしてこないときにどうやって攻めようかと悩んだ。打たせて(カウンターを)合わせるというスタイルだけになってしまったのが、KOできなかった原因なのかなと思う。コーナーに戻って『どうやって攻めたらいいですかね』と聞いたりしてました」
本人が自覚するように、那須川の攻撃はカウンターに大きく偏り、自分から相手を崩していく術がなかった。グスマンが思惑通り最後まで前に出続けられたのは(たとえパンチが当たっていないにしても)、那須川が下がってカウンターばかり狙っていたからだ。もし那須川が接近して相手のアタックを止めるという選択肢も持っていれば、また違った展開が待っていたことだろう。本人が「4ラウンドあたりに左手に稲妻が走った」と明かしたように、左の拳を痛めたことも要因の一つに挙げられる。