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トム・ホーバスの「厳しい練習」は、日本人がやりがちな「根性練習」と何が違う? 日本代表を勝たせた外国人“鬼コーチ”が直面した日本の課題
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byGetty Images
posted2023/09/02 11:03
バスケW杯で歴史的勝利を上げた男子代表。指揮官トム・ホーバスは女子代表に続き、日本バスケを高みへと導いている
EJ トムの言うように、現代のコーチは数値に基づいたゲームモデルを提示する必要があります。それを練習メニューに落とし込む。2015年W杯に臨んだジャパンはヘッドスタートによって体を大きくし、午前は小さなユニットで練習し、システム、スキルを浸透させる。そして午後はフルメンバーで練習する。ラグビーとバスケットの共通点は、20cmほどの身長差があるならば、それは決定的な差になりかねず、そこを克服するには、ディテールにこだわって準備を重ねていくしかないということです。
TH 90年代、私はトヨタ自動車で国際マーケティンググループの仕事に就いていました。とても印象的だったのは、トヨタの車作りというものが、徹底的にディテールにこだわっていたことです。ドアを閉めた時の音を最小限にする技術や、ハンドルを握った時の感触など、細部にとことんこだわる。これは素晴らしいと思いました。
EJ それこそ日本の産業の特色でしょう。
TH ところが、バスケットボールとなると、ディテールが消え去っていたのです。当時の日本男子のバスケは大雑把で、単に5対5のドリルをやっているようなものでした。90年代、アメリカの方がより細かいスキルを重視して試合をやっていましたよ。
EJ 細かいことにこだわる国民性なのに、ことスポーツの指導になるとそれが消えてしまうのは、日本のスポーツの大きな課題ですね。その原因は、どの競技の選手たちも中学、高校時代から長時間練習に慣れていることにあると思っています。