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高校野球“いまのトーナメント制”は平等か?「部員に悩む野球部」と「甲子園経験校」が対戦…群馬の高校が22年ぶり勝利“のち大敗”に見た問題点
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNanae Suzuki
posted2023/08/27 17:00
今夏の群馬大会、部員はたった14人の高校が22年ぶり勝利…そこで考えた「いまのシステムは平等か?」(写真はイメージ)
松井田高の球児にとって野球とは?
しかし、現実問題として、勝因のもう一つの理由は対戦相手が似たような境遇のチームだったということだ。対戦相手だった榛名高はオリックスの名内野手・安達了一選手を送り出したが、のち低迷。松井田と同じく部員不足に悩む学校だった。
この試合の記録上の失策は3にとどまっていたが、もし、甲子園の公式記録員が忖度なしにつけていたら、少なくともあと5個くらい増えていたであろう試合だった。
ただ、忘れていけないのは、これも「高校野球」ということである。
150キロのストレートを連発、高校通算120本超えをマークする逸材が目立つが、現実のレベルはピンからキリまで及ぶ。そのすべてが高校野球である。
「優秀な指導者」を考える時に、野球界における「役割」を踏まえる必要がある。逸材をつぎつぎに育て上げる指導者も特筆すべき存在だが、仮に松井田高の庄司監督のような指導者がいなければ、部員不足に悩むような学校の選手はそもそも野球を継続できない。
では、松井田高校の生徒にとって高校野球がどういう意味があるか。それは生きていく上での自信を育むためのものだった。彼らが野球を生業にする可能性は低いかもしれないが、3年間、野球に取り組んだという事実が人生にとってプラスになるはずだ。目標を持って努力を続けたこと。それが人間性を育み、生きていく上での財産になる。
1回戦突破を目指して練習すること、実際の試合で緊張すること。そうした過程を、好きな野球で体験できることに意味があるのだ。そこにレベルの差は関係ない。甲子園で優勝するチームにだけ、高校野球が存在するわけではないのだ。
「部員に悩む高校」が「強豪」と戦う…でいいのか?
ここで重要な点が、そうした松井田高校のようなチームと甲子園で優勝を狙うようなチームが同じ土俵で戦う現在の仕組みにある。
群馬で言えば、健大高崎や前橋育英、桐生一が甲子園常連校と呼ばれる。もちろん彼らは最前線で野球界に貢献しているチームと言えるが、松井田高のようなチームとは目指しているものが根本から異なる。